透き通る

42 (北山先生) ページ42

「北山先生〜！今、暇？」




教頭からそう声をかけられて、俺は舌打ちしたい気分になる。




「暇じゃないっすね」





「空き時間でしょ？」





「授業の準備あるんで」





「3年の教室棟の廊下の蛍光灯、換えてきてくれない？」





「何で俺が？」




「今日、用務員さん休んでんだよ。チカチカチカチカしてるからさぁ」





「１日くらい電気つかなくてもいいっしょ」





「よくないよ〜。気づいた時にすぐやらなきゃ。ほら、行って行って」





教頭に強引に押しきられて、俺は嫌々蛍光灯を換えに行く。






切れかけの蛍光灯は、Aの教室の目の前にあった。






廊下側の、真ん中の辺り。





久しぶりに見る、Aの後ろ姿。









全然、子どもなんかじゃない。





小さなAなんかじゃない。







罪悪感に、胸が押し潰されそうになってしまう。





「みっくん、届く〜？」





Aのクラスの女子が俺に気づいて、廊下側の窓から身を乗り出す。





シッシッて追い払う仕草をしていると、Aも俺の方を振り返った。






一瞬、驚いたように目を見開いて、それから曖昧に笑う。





それは、困っているようにも、怒っているようにも、悲しんでいるようにも見えて、俺はたまらない気持ちになる。







愛しさの意味なんて、誰も教えてくれなかったのに、どうして俺は、この気持ちを知っているんだろう。







"気をつけて"





脚立に足をかける俺に、Aの口の形がそう動く。






頷いて、背中を向けた。






顔を上げることができなかったから。








透き通るほど透明で、透き通るほど純粋なのは、本当は、俺のAへのこの想いなんだと、ようやく気づいた。

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