奇妙な帽子 part2 ページ26
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「ぅ……」
ベッドの上で、小さくユウが呻く。
アイリはその額に乗ったタオルを取って、音を立てないように洗面器に浸して絞る。それを再びユウの額に置くと、心地がよかったのか強ばった表情が和らいだ。
「……可愛いなあ」
苦しげな呼吸はアイリの耳にも届いているはずなのに、彼はそんな言葉を口にした。
数週間前。
待てども待てども、ユウが帰ってくることはなかった。
彼の翼が飛翔できる程度には再生していることを、アイリは知っている。彼のことであるし、身体の支配権を握っているのだから当たり前ではあるのだが。
何故そうしたのかは、自分でも分からない。ただ、彼が自分から連絡してくれるという事実に、気分が良くなるような気がした。
ユウはいつも六時頃に帰ってきてくれて、その前には必ず連絡を寄越した。
(こんな感情がボクにあるなんてな)
始めは興味本位だった。
翡翠色の髪に橄欖石の瞳の青年。
アイリがまだ天界にいた時、自身の羽根を肉にせず、それをあちこちに忍ばせていた。道路に落ち葉とか、部屋の抜け毛とか、その程度のレベルの認識しかされないそれを、情報を得るために散らしていたのである。
だからアイリには、アリアに殺されかけたあとの天界の様子もわかっていた。知っていた。
自分のことを愛してくれた美しい女天使が死んだことも知っていた。反乱のあと、協議によりレガリア・インヴァリーが天帝となったことも知っていた。
そして――他の天使達が、天帝に相応しい資質の持ち主、と彼を評していることには笑いだしそうだった。
確かに、レガリアの能力は素晴らしい。同じ頃に生まれ、共に育ち研鑽したから嫌という程理解している。
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作者名:ゼファー | 作成日時:2021年1月14日 13時