- 鳴上嵐と独奏曲/第一話 ページ3
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「そういやさ、天羽、今学院にもきてないらしいぞ」
「ついに誰とも会わなくなったってことか？」
「あー…なんか聞いたわ」
アタシの目の前で昼食をたべていたみかちゃんが、ぴくりとその名前に反応する。この大きいようで小さな学院の中で天羽だなんて珍しい名字を持っている子は1人しか居ない。
「みかちゃん、大丈夫？」
「っ、あ、だ、大丈、夫、やで！なるちゃん！」
「…そう」
全く、大丈夫じゃないのは、きっと自分以外の人がみかちゃんを見てもすぐに理解出来る。そのくらい大丈夫とは程遠い表情をして焦った声を出すこの子に、心の中で小さくため息をこぼした。
『Valkyrie』と『Knights』。ほとんどの人が知らない、とある関係。知っているのはお互いのユニットと、去年の騒動の中心にいた人物たちくらいで、他の生徒たちはきっと、誰も知らない。なずなちゃんを含んでいた頃の『Valkyrie』と昨年度の『Knights』のAちゃんが仲が良かったなんて、きっとみんな、知らない。
そして本人たちも、お互いがお互いを無意識に避けていたなんて気付いていないだろう。良く近くにいるアタシくらいじゃないと気付かないくらい、無意識に。
「みかちゃん」
「…んあっ！なに？なるちゃん」
「アタシちょっと用事あるから行ってくるわね」
「わかったわぁ、気ぃつけてなぁ〜」
Aちゃんが学院から完全に姿を消して大体2ヶ月。それまでは教室には居なくても学院のどこかで誰かしらと言葉を交わしていたはずなのに、ここ2ヶ月は誰1人あの子の姿を見ていない。凛月ちゃんも泉ちゃんも、もちろんアタシも。
『あーらーしっ！』
辿った記憶の中のあの子は、時折寂しそうだった。けれどその姿を見るのはごく稀なことだったというのも事実。だから大丈夫だと思っていた、なんていうのは、ただの責任から免れたいだけの言い訳だ。
在り来りな例えではあるけれど、鈴のような楽しげな笑い声と共に呼ばれていた自身の名前。いつも屋上の入口の隣に座って、小さく手招きをされて。隣に座れば、その頃にはまだ学院に復帰していなかった王さまの作った曲を口ずさむ。
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作者名：ラビット_ | 作成日時：2023年7月28日 10時
