6話 ページ6
オーディションには無事に合格した。
玲王の為に磨いていたものが皮肉にもオーディションで存分に生かされていたからであった。
そして後から知ったことであったが、オーディションに合格すると共にメジャーデビューが決定するという決まりがあったらしく、私のデビューはあっという間であった。
オーディションはテレビで放送され、全国のお茶の間で流されていた。そして、それを見ていたのは玲王も例外でなかった。
「テレビに出てたの……お前、だよな？」
テレビ放送が終わると直ぐに玲王から電話がかかってきていた。すぐに応答のボタンを押すと玲王から困惑と不安が混じったようなそんな声が聞こえてきた。
「うん、私。芸能界デビュー、なんちゃって」
「それはお前が欲しいものなのか？」
少し上擦った声でおちゃらけたように私が応答すると電話越しにいた玲王は少し怒ったような声でそう私に問いをなげかけた。
予想になかった玲王の質問で少し息が詰まったが、私は直ぐに取り繕い、玲王への返事をした。
「そうだよ、昔から気になってたし」
手と額から汗が出てくる。少し冷たい空気の中、それはじんわりと私の体に馴染んでいく。
少しの間があり、電話のスピーカーからため息をつくような音が聞こえた。
「いーや、違うね。お前がそんなリスキーなことするわけが無い。オーディションの時のお前の顔も学校にいる時の顔だった。」
「何年一緒にいると思ってんだバカ。バレるっつーの」
そして玲王は私の返答に違和感を感じたのか、私の心の中を見透かすかのようなことを口に出した。
心配をしているかのような優しさを見せてくる玲王。でも、ここで頼ったら玲王に迷惑がかかるしそもそもどうにかなるものでもない。
どうしようかと考えているとやがて玲王は埒が明かないと考えたのか、先程より落ち着いた声で話しかけてきた。
「Aさ、もし俺へ迷惑がかかるとか思ってんならその考えをやめろ。俺には今の状況をどうにかできるほどの権力がないけれど、話を聞いてやることぐらいはできるよ。」
「だからさ、溜め込むなよ」
電話越しだから何も見えないが、玲王の優しさだけは自分に見えた。ああ、本当に好き、大好き。
私が惚れたところはこういうところなのだ。優しくて、甘い。そんなところ。
そして私は次第に自身の服にポツポツと水玉模様を作っていった。
部屋に響くのは風の音と玲王の部屋の音と私の嗚咽であった。
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作者名：ﾄｸﾆﾍﾞﾂﾆﾅﾆﾓﾅｲﾖ | 作成日時：2022年11月15日 20時
