2話 二人の兄 ページ4
マージュに見送られ、僕はいつもの集合場所まで走った。
決して、のんびり歩いて行こうとする僕の様子を見ていた弟に叱責されたからではない。
『せっかちだなぁ...全く』
肩を竦めながら、曲がり角を右へ、左へ、また右へ...朝6時の村は空いているのだ。
昔は、この時間帯はもっと人が歩いていたらしいのだが...噂の野獣が出てからは、この時間に村を歩き回る人なんて滅多にいない。
昼になっても、それは変わらないのだ。
『...絶対に辿り着けない、野獣の古城』
『野獣の息は、猛毒の息...』
誰もいない道の真ん中で、僕は小さい頃から読み聞かせられていた物語のフレーズを口ずさむ。
集合場所まで、あと少しだった。
・
「...来たな」
『おはようございます!
コウさん、シュウさん!』
集合場所...村の端に位置している小さな広場である此処には、既に二人の影があった。
一人は王国騎士団の正装に身を包み、腰に剣...レイピアを提げている短髪の青年、コウさんだ。
今日も今日とて優しそうな笑みを浮かべており、僕も自然に微笑みを浮かべてしまった。
もう一人は寝間着に身を包み、気だるそうに大きな欠伸をしている、長い髪をハーフアップにしている青年、シュウさん。
今日も今日とて、如何にも眠たい...というようにうとうとしていた。
...と、背後に気配。
「A〜!どうして遅れたんだい!!」
『う、わぁ...!?』
避けようと奮闘虚しく、僕は見事なまでに抱え上げられてしまった...コウさんに。
『ちょ、コウさん!
僕もう大きいし、重いから!!』
「いいや、全然軽い!
毎日ちゃんと鍛えてるのかい!?
お兄ちゃんは心配だよ...!」
僕よりコウさんの方が大きいが、そうは言っても数センチ差だ。
軽い軽いと言ってるコウさんも鍛えてはいるようなのだが、それでも細身の部類に入ると思う。
どちらかと言えば、すぐ後ろでうたた寝をしようとしているシュウさんの方が筋肉が付いているだろう...背も、僕らの中では一番高い。
「...おい、コウ。
それくらいにしたらどうだ?
Aも困ってる」
「ん?ああ、そうだね...」
目は瞑ったまま、あたふたしている僕に助け船を出してくれたシュウさん。
その声にコウさんは名残惜しそうに僕のことを力一杯抱き締めて決めてから、ゆっくりと降ろしてくれた。
身寄りのない僕らにとって、この二人は頼りになる兄のような存在なのだ。
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Carlo(プロフ) - コメント失礼します、この作品とても好きです。一気に5話まで読んでしまいました!更新頑張ってください (2018年1月15日 22時) (レス) id: ba25b1f9ca (このIDを非表示/違反報告)
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