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近づくに連れてどんどん重たくなる足と気持ちを引きずりながら、目的の超高層ビルに到着する。

見上げれば、高い、なんて表現出来るものでは無いほど圧倒的に反り立ち今にもこちらに倒れて来そうな無機質な塊に、その自動ドアをくぐるだけで地獄の門を通過したような気分になってしまった。


(今すぐ帰りたい…助けてヒーロー…!)


などと思い俯きながら、足取りも重く最後尾を歩いていた私を気にしてくれたのか、ふと気付けば最前列辺りにいたはずの山本さんが目の前にいて目を見開いた。


『ど、どうかしましたか?』

「Aちゃん、大丈夫?なんかさっきから浮かない顔してる気がするんだけど…」

『そ、そんなことないですよ!あー、えっと、撮影に関われる事なんて滅多に無いので、ちょっと緊張してしまって!』

「ほんと?まぁ、そうだったら良いんだけど、またこの間みたいに体調とか無理してるんならちゃんと言ってね」

『あはは、ありがとうございます。もう、寝不足でも無いので本当に大丈夫ですよ!』


相変わらず心配そうに顔を覗き込んでくれる山本さんの心遣いが嬉しいやら辛いやらで情けなくなってくるけれど、我ながら上手くごまかせたのでは無いだろうかとも思う。

自分で立候補した挙句、無理やり撮影班について来た私のような一介のバイト風情が、実は高所恐怖症なので高層ビルとか無理なんですよね、などと今更カミングアウトするわけには断じていかない。

私が今ここですべきなのは、最低限与えられた仕事の遂行と、山本さんを始めとして誰にもこの恐怖症を悟られないことだけだ。


(これ以上、迷惑をかけるわけにはいかない…!)


人知れず、一世一代の決心でグッと手を握り、ビル内のスタッフさんに案内されるまま再奥のエレベーターへ向かう。

階数が上がれば上がる程東京の街並みを一望出来るのだろうと安易に想像がつくくらい、その庫内はご丁寧にも一面の雲りも無いガラス張りで。

先程したはずの決心がすでに揺らいで卒倒しそうになりながら、なんとか階数表示のボタン側に陣取って視覚の断絶に成功したのだが…。


(どうしよう…前途多難すぎる…)


なんとかスタッフ全員が乗り込めたエレベーター内で、極力サイレントなため息をひとつ。

屋上階のボタンが点灯して無情にも扉が閉まると、振動と共に独特の浮遊感が襲い、臓器がヒュッと縮み上がるのを感じながらまた息を詰めた。


(ヤバい…まだ屋上にもついてないのに…怖い…!)


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作者名:SEN | 作成日時:2021年10月16日 0時

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