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エレベーターの上昇と共に心拍数が上がって行く。

血の気が引き、手足が冷たくなりながら身体が強張って行くのを、否応無く痛感する。

最上階に着くまでの我慢勝負に、早くも瞬殺の白旗がちらついたその時。


不意に、固く握り締めた拳に暖かさが重なった。

驚いてその先を見れば。

心配そうな山本さんの瞳が、すぐ傍にあって心臓が跳ねる。


「Aちゃん、高所恐怖症、だよね?」

『…っ?!』


ガラス張りのエレベーター内では、あれが何でこれはどうでと言う景色の話題で持ちきりのため、至近距離での会話は幸いにも誰の耳にも聞こえていないようだったが。

まるで内緒話をするように、しぃ、と人差し指を口に当ててそう言われ、どうして、と瞳だけで訴えてみた。


「もう大丈夫、一緒にいるから。安心して」


山本さんの優しい言葉と手の温もりは、まるで魔法のように身体に染み渡って。

今まで恐怖に覆われていた自分自身が、高鳴る鼓動と入れ替わるように、不思議と落ち着いて行くのが分かった。


(山本さんは、私の、ヒーローだな…)


なんて、場違いにもそう感じているうちに。

ポン、と軽い電子音が最上階への到着を告げ、振動と共に重い扉が開いた。

私の手を握ったまま、それを周囲の目から隠すようにスッと背にして、開くボタンを押す位置に陣取った山本さんの表情は見えない。

ようやく最後のスタッフさんが降りた後、私もそっと、手を引かれながら外に出た。


『あ、の…!』


解放からか緊張からか、上ずってしまった声を恥ずかしく思っていると。


「ごめんね、もっと早く気付いてあげられれば良かったんだけど…」


申し訳なさそうにこちらを見てくれる山本さんに、そんなことは、と言いかけた言葉は、またしても山本さんからの予想外の言葉に制されてしまった。


「ずっと、Aちゃんのこと見てたからさ」

『えっ…?』

「好きな子がピンチの時は、助けてあげたいもんでしょ?」


私の思考の先を、まるで超能力のようにスラスラと正しく読み取って告げられるその言葉は。


「大丈夫、怖く無いような所で出来る仕事、高松に提案してくるから、ちょっと待っててAちゃん」


名残おしそうに離れて行くその手は、その表情は。

まるでヒーローで。

そして。

もしかして、と思い至ってしまったその先を想起させるには十分で。

目の前に広がる青い空が、キラキラと眩しく見えて仕方なかった程。


ヒーローも ヒロインに 恋をして。


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作者名:SEN | 作成日時:2021年10月16日 0時

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