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「…憂さ晴らしのつもりなの?そんなことしても私は外に出る気はないから。離して」
痛い。
「離してっ…離せってば!!」
…いたい。
「はなしてよぉ…はなして、おねがいだからっ…」
突き放そうと声を荒らげても、腕の中で反抗しながら暴れても翔太は何も言わないまま私のことを離そうとはしてくれなくて「離せ」と言葉を唱える度に力が少しずつ強くなっていくばかりだった。
そのせいなのか今まで堪えていたはずの箍が外れてしまって瞳からは雨のようにとめどなく涙が零れ落ち始めた。
「バカ…ばかぁ」
私の辛さを分かった気にならないで欲しい。言葉では弱々しい抵抗を続けて身体では翔太の服にしがみついて子供のように泣き叫ぶ。
何も言わなかった翔太だけれどもその代わりに直接暖かみを注ぎ込むように頭を撫でたりしてくるから私は身体の抵抗をやめてしまった。
翔太はいつも、いつもいつも勝手に踏み込んでくる。
幼馴染の頃からずっとそうだ。小さい頃から私の部屋に勝手に入ってきて平気な顔をして寛いで。その時は嫌味とかを感じることもなくて寧ろ翔太がいない日が多いと違和感を感じることも多かった。
だからなのか、翔太にはいつも困らせられて。変な安心感を覚えてしまって。
話しかけられる日にはまた来てくれたんだと妙に居心地が良く感じた。
「__俺は好きだよ」
翔太の口から出てきた「好き」の二文字。嘘みたいに聞こえてしまって私を慰めるための言葉なんかじゃないかと弄れたことを考えてしまう。
けれどもその言葉に私は翔太の方へ向くと目の下に親指を添えられて涙を掬っていた。
「絶対に一人なんかにしない。置いていったりしない…だから外に出てなんてこと言わないから。お願い、俺と会う時には顔だけ見せて」
月のように静かに寄り添って、光を差すように穏やかな笑みを向けてくれて。
__だから彼は私の弱点なんだ。
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作者名:夜紅茶 | 作成日時:2020年6月9日 16時