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周囲の人間はよく私以外の家族に集ってきた。愛想が良ければ、出来が良ければ周りは私と比較して綺麗なものを見るかのような目で近づいた。
大抵私には目を向けない。私はそんなプレッシャーに個性を消されたから目につくほどでもなかった。
「それだけ？」
「それだけ」
見知らぬ彼に嘘なんてつく必要性がない。オウム返しに言葉を繰り返せば彼は鳩が豆鉄砲をくったかのように目を見開く。そして時間が少し経てば彼は何故かニヤリと笑みを深める。
「逆に私が聞きたい。なんでここに入ってきたか」
声の震えが止まった。多分、恐怖することよりも探究心や好奇心の方が強かったから。
すると彼は私の方へ足を進めて、冷えた人差し指の腹で私の顎をソフトタッチし、高身長の彼と目線が合わせるためなのか顔を上に向かせた。
ガラス玉のように透き通った桃花眼の鮮やかなシャルトルーズ、その眼の奥に好奇心がハッキリと見えた。
「君の眼、死んだ魚の目みたいやね」
「…私の質問は？」
「勿論答えるよ、そんなに急かさんといて」
彼はクスリと笑って「穏やかやないのは苦手やし」と婉容な言い回しで私の顎から指を外した。
何がおかしいんだろう。笑ってる理由がわからない。
「君…Aが細かく問い質したいのはどうして自分なのかってことやろ？」
敢えて核心をつく言い方だった。しかも私の名前を知らないはずなのに言えていること自体おかしい。
「虐待、心身への攻撃
「仮にやられてるとしたら、どこで知ったんですか」
「俺見てたよ。君のこと、半月前くらいから」
私は驚きのあまり今度はこちらが目を見開く。ストーキングされていた？けどそんな気配も雰囲気すら感じたことがない。
困惑していると「ふふっ」と彼は笑って後ろ背を向ける。
「ま、それはAの今後の返答次第で詳しく教えてあげよかな」
焦らすような言い方。私は本当に何も知らない？
記憶喪失だとか幼い頃の記憶だとか多分そんなことは無い。小学校か中学校で出会ってるかという憶測もあったけれど彼は多分、私よりずっと年上のはず。
彼は私の方へゆっくりと振り向いて片手を差し伸べた。
「A、見ず知らずの俺に誘拐される気は無い？」
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作者名：夜紅茶 | 作成日時：2020年6月9日 16時
