左様なら ページ11
萌衣side
戦況はかなり苦しい。打刀の長さが室内の色々なものに引っ掛かって上手く立ち回れない。それに、霊力が段々と減っているのを感じる。これまでにないくらい損傷も激しい。貫かれた右足が上手く動かせない。
とその隙をついて敵の大きく振りかぶった一撃が襲ってくる。避けられず、刀で受け流すと凄い力で飛ばされる。
「ぐっあ…！」
そうだ、Aは、Aは大丈夫だろうか。ぐっと目を凝らすとガクンと頭を垂れたまま制止している。機器の不調？なんなのかはよく分からないが、そのまわりを敵がぐるりと囲んで一斉に彼女を攻撃しようとしたのは見てとれた。動かないAに刀が振り上げられ、刃がぬらりと光った。
「A────！！」
一瞬後にはAはそこに居なかった。
代わりに鉄臭い臭いと共に男の呻き声が聞こえる。術者が居なくなったことで霊力の切れた敵が霧散したあとに血塗れのAが立っていた。
そしてはっと気づく。
いや、あれはAじゃない。
薬研藤四郎だ。
理解するとどうして彼がAの体を操っているのか、Aは大丈夫なのか、疑問が沸いてくる。
「薬研さん、ですよね？どうして…。」
「どうして俺がこの体を操っているか、か？すまんな、俺の独断でお前たちの意識が俺達の意識より優位に立つようにする制御を無理矢理外させてもらった。あぁ、Aは大丈夫だ。問題ない。」
「本当ですか！良かった…。」
「だが、俺のほうはここまでみたいだ。」
薬研さんの言葉と共に薬研藤四郎にバキッと大きくヒビが入る。びしびしと亀裂が広がって
ついに刃先から３分の１あたりが落ちた。
思わず山姥切さんと叫ぶ。
『薬研！』「薬研さん！」
「ああ、そうだ。伝え忘れそうになった…。
萌衣、お前たち女巫は政府のお偉いさん方にとっては道具かもしれんが─、お前達自身は道具じゃない。自我を持った以上、たとえそれが限定的なものだとしても、ただのものじゃない。というか、そもそも──」
言葉が途切れ、Aの目が閉じられた。Aから換装がとけ、菫色の粒子がくるくる周りを回る。
そしてついに、パキィィィンという音と共に薬研藤四郎は粉砕し、菫色の粒子もきえた。
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作者名：きつね | 作成日時：2019年5月12日 16時
