手のひらの上でサンバを踊るな【あんスタ】

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「それに君、すっごく疲れた〜！って顔してたから。疲れたときには何か食べるのが一番！」



自分用に作ったらしき巨大スコーンを頬張りながら青年は言う。
いや店長がいないからって許されることなのかそれは。



「でもまぁ、やりたくない仕事やるのってしんどいっすからね〜」
『……え？』
「君も無理やりやらされてるんすか？辛いっすよね、わかります」
『待って待って待ってください！！』



想定外の言葉に思わず大声が出た。ふたりしかいない店内にAだけの声が響く。



『無理やりって、え？なんで？私、やりたくてやってます。お父さんが喜んでくれるために、お父さんみたいになりたくて、それで、』
「えっすみません！てっきり僕の同志かと思って……本当に申し訳ないっす……だから、ほら、落ち着いて？」



顔を真っ赤にして立ち上がったAの頭を不器用に撫で、青年は優しく言った。
そのお陰か、Aの頭も冷静になっていく。



『あ、こちらこそごめんなさい……！仕事が全然上手くいかなくて八つ当たりしちゃってました』
「なはは、大丈夫っすよ〜。それより尚更君は糖分をとるべきっす！」


ずいと差し出されたココアを一口飲んでみれば、甘くてどこか懐かしいような味が口いっぱいに広がった。
思わず笑みをこぼしたAを見て、青年は満足そうに微笑む。


「知ってます？あったかくて甘いものは、心に刺さったチクチクしたものを溶かしてくれるんすよ〜」


その言葉にAは、
『また絶対来よう』
と口を生クリームでいっぱいにしながら誓ったのだった。






＊



「ちょっとは学習してくれないかなー。ったく、なんでリーダーはあんずじゃなくてこの子を指名したんだか……」
『えっと、ごめんなさい……じゃあこの案は』
「あー良い良いそのままで！そんぐらい察してくれない？」


せっかく店員さんのお陰で幸せな気分になれたのに台無しだ、とAは心の中で悪態をつく。

少しでも相手に非があるなら全力で被害者ヅラして目の前のアイドルをあんずにつき出すことも可能だが、毎回毎回完全に自分が十割方悪いので謝ることしかできない。



「星見にはもっと期待してたのに、裏切られた気分」
『(じゃあ何を期待してたのか具体的に言ってよ……)』



星見を全知全能の神だと勘違いしているのか何なのか、アイドル達が繰り返す言葉はだいたいこれだ。
だから、Aも何が悪いのかわからない。実際何度か聞いてみたがキレられただけだった。

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