【忍たま】私に、確かに刻んで【善法寺伊作】

突然のできごと ページ9

you side



それは突然だった。



頂いた蓮華草の花が、花瓶の中でくたりと
頭を垂れてきた頃。




青年「Aさん、貴女が好きです」




いつものお店が空いた時間。

今日は雨なのでいつもより客足は少ない。



そんなときに。




青年「好きなんです。一目見たときから」




ここに来るのも、私に会いたいからだと。




『お茶とお団子のためだって……』




そう言うと、彼は綺麗に爽やかに笑う。




青年「はは、それも本当ですよ。だけど……
　 私はAさんに会うと、心がやすらぐんです」



『あの、私……』





青年「私と、恋仲になってもらえませんか？」





真っ直ぐに私を見て、その目は真剣で。
私のことが……す、好き……って





私の心は決まっている。




だけど、今私が願う言葉をくれるのは
伊作くんじゃなくて。




青年「好きです、Aさん」




私に近付く彼に、目が逸らせない。







奥「あら。Aちゃんには素敵な彼がいるのよ？」




何も言えずにいると、
私の後ろから奥さんが顔を出した。




奥「ねっ、Aちゃん」




ぐっと、弱い心が引き戻された気がした。




青年「恋人が……いらっしゃるんですか」




彼は驚いたような表情を浮かべている。




『あの……ごめんなさい……』






◆◇



青年「お茶とお団子、食べにきます」




彼はそう笑顔で答えて、店を後にした。




「まだもう少し、想っていてもいいですか」




そんな言葉を残して。








帰り際、奥さんに手招きされた。




奥「Aちゃん、
　 この間の彼が好きなんでしょう？」



『えっ……えっと』



奥「わかるわよ、ふたりを見ていたら。
　 幼馴染だって言うけれど、
　 お互いのこと大切に想ってるのね」



『私は……好きです』




顔が、……熱い。








『あ、』




帰り道、ふと今朝届いた手紙のことを思い出した。
後で読もうと、巾着に入れて家を出たのだ。



かさかさと紙を広げれば





【Aちゃんに、会いたいです】





大きな字で、それだけ書かれた手紙。
じわり、目尻に涙がにじむ。




『……私も、会いたい』



家に帰ったら、そのままを手紙に書こう。

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