【ジョジョ】ミヤコグサを忘れない【５部】

暫しの別れ ページ42

「本当にいいのか？今からでも特急の手配はできるが……」

ネアポリスを発つ日、早朝に中央駅まで送ってくれたブローノが心配そうに言う。
私が往路と同じ経路で戻ると言ったからだ。安さを重視したので乗換もあるし時間もかかる。
彼から特急列車のチケットを手配すると申し出があったのだが、ここまで散々お世話になっておいてそこまで頼る訳にはいかないし復路のチケットも手配済だったのだ。

『いいの、時間だけはたくさんあるし。ゆっくり景色を見ながら乗っているのも嫌いじゃあないから。それに移動中の方がアイディアが浮かぶことが多いの』

ありがとう、と言ってもう一度断ると、彼は観念したように笑った。
改札を抜け、ホームまで見送りに来てくれる。
乗る列車はまだ来ていない。
最後の挨拶をするため、彼の方に向き直って真っ直ぐ彼を見つめる。

『ありがとう、本当に。なんてお礼を言っていいかわからないわ』

「礼を言うのはオレの方だ。Aがいなかったら、オレはまだ立ち止まったままだっただろう。Aのおかげでオレは前に進めるんだ」

真っ直ぐ、私を見つめ返して彼は優しくてあたたかな笑みを浮かべた。
そんな大層なことは私はしていないのに。

『そんな、おおげさだわ』

「そんなことない。自分のチームを作ることにしたんだ。信頼できる仲間を集めてのし上がる！」

ブローノの瞳に固い決意が見えた。

彼なら必ずそうなる。
私には得体の知れない組織の中で、トップの傍に付き力を奮うのだろう。

なんだか急に遠くに行ってしまうような気がした。
きっと、今よりももっとたくさんの人望を集め、老若男女問わずたくさんの人が彼を慕うだろう。

私なんかには手が届かない人になってしまうのだろう。


私を見つめる瞳の中に燃える決意が、私の手を動かした。

『ブローノならきっとその通りになる。……そしたら、遠い存在になっちゃうのね』

その通りになる、いずれ忘れてしまうなら、今自らの手で消したい。
今までもしてきたように。






私を忘れて






そう心で唱えながら彼の頰に右手を伸ばした。

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