仕返し ページ39
街に戻って数日、彼、ブローノとの毎日もすっかり元に戻った。
朝、共に朝食をとり私を現場の教会まで送り届け、作業が終わる頃には必ず教会の外に迎えにきてくれていた。
変わったことといえば、私がちゃんと彼を名前で呼ぶようになったことと毎日一緒に過ごす時間が増えたことだろうか。
それまでは同じ家に帰るといえど、一緒に過ごすのは朝食と送り迎えのときくらい。彼にも仕事やなんやかんやあるらしいので家を空けることも多く、同じ時間に家にいても別々の部屋でそれぞれ過ごすことがほとんどだった。
それが今では、私の迎えのあと彼が出掛けることはなくなり、夕食を共にとり、食後もリビングで一緒に過ごすことが多くなった。
彼と一緒にいると調子が狂う、と思っていたのに、今ではとても居心地がいいのだ。
そんな私を彼も何も言わずに受け入れてくれていた。
しかし礼拝堂でキスをして以来、愛の告白を交わしたりだとか、キスをすることも、もちろんそれ以上のこともなにもなかった。かと言ってなにかを求めるわけでも、求めてほしいわけでもなかった。
なにかになったところで、夏は間もなく終わるのだ。
「A、入っていいか？」
作業が休みの日、寝室として与えられた部屋の窓から見える夕景があまりにも美しくて夢中でスケッチしていた。
修復士を目指す前はただの絵描きが好きな少女だった。公募展に応募するもことごとく落選。
画家やイラストレーターといった職業を選ぶ勇気は私にはなく、せめて好きだった古美術の修復に携わりたいとこの道を選んだのだった。
この旅にも簡単な画材を持ってきていた。
『……どうぞ』
ノックの音に我に返り、返事をしながら床に散らかしていた無数のスケッチの数々を拾い集めていた。
「すまない、なにかしてたのか……Aが描いてたのか？」
返事に扉を開けた彼が、足元に落ちていた1枚を拾い上げて言う。私は自分で拾った分をまとめ上げながら小さく頷いた。
「上手いな。絵も描くのか？」
『趣味でね。修復家は絵を描く人も多いわ』
「大きな作品は描かないのか？」
『高校以来…描いてないわね。私が目指してるのは、画家じゃあないから』
「描いたらいいのに、きっと賞がとれる」
自身が拾った1枚を私に手渡してくれる。
にこやかに言う彼に、少し腹が立った。
落選したときの必死で描いた作品を否定されたような気分はもう二度と味わいたくない記憶のひとつだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 48人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
おまきまお(プロフ) - 。さん» それこそ数多の素敵な作品の海から見つけ出して下さってありがとうございます！！本当にお言葉ひとつひとつが嬉しすぎて。様に読んで頂けたことがわたしは何よりも嬉しいです。書き上げて良かった…！！(泣)そしてチャララティギルティ…語呂がよすぎて思わず笑いました (2021年1月28日 3時) (
レス) id: e365e09243 (このIDを非表示/違反報告)
。(プロフ) - 数多くある作品の中で、この作品に出会えた事が何よりも嬉しいです…。夢主ちゃんの心の強さやブチャラティの優しさとか、2人の距離感がとても好きでした。本当に、素敵な時間をありがとうございました！チャララティ…ギルティですね(唇噛み締め) (2021年1月25日 2時) (レス) id: 670de1abda (このIDを非表示/違反報告)
おまきまお(プロフ) - さくらんぼ＆チェリーさん» 感想ありがとうございます！そうなんです、このまま原作通りにいってしまうとどうしてもハッピーエンドにはならないんですよね……わたしもなんとか夢主ちゃんを幸せにしてあげたいので試行錯誤しているところです。また暇つぶしのお供に読んで頂けたら嬉しいです。 (2019年9月15日 0時) (レス) id: e365e09243 (このIDを非表示/違反報告)
さくらんぼ＆チェリー - この後ブチャラティは死んじゃって、死んだのを知っても悲しむんだろうな。それとも、夢主ちゃんはそれを知らずに待ち続けるんですかねぇ･････？どう転んでも私の頭じゃハッピーエンドにならない。つながらない･････。すごく素敵な作品でした。 (2019年9月13日 17時) (レス) id: ced51d468f (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：おまきまお | 作成日時：2019年5月25日 16時
