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「せっかくのデートなのにごめんね、暗くして。」
「いいよ、他には何もしてやれないから。」
Aのマフラーに顔を埋めると涙が出てくる。
「どうして先生が泣くの？」
「…わからない。」
可哀想だとか、そんな同情心でもなく。
痛みが伝わる、と言えるほど敏感な人間でもない。
この涙がなんで流れるのか分からない。
たった１つだけ言えるとしたら
「生きててくれて、ありがとう。」
それだけだった。
Aは体を離すと俺の頬を両手で挟む。
「イケメンは泣いててもイケメンなんだね。」
「うるせーよ。」
優しく微笑みながら言うから、また涙が出てくる。
俺が泣いてしまったせいで、Aの涙はどこかに行ってしまったんだろうか。
「違うよ。泣けない私の代わりに先生が泣いてくれたの。」
それだけ言うとAは俺の唇に触れるだけのキスをする。
「…ほんとに考えてること分かるんだな。」
「唯一の特技だよ。」
にっと笑うAは学生の頃と変わらない。
いつも誰かがそばにいて、いつも誰かと笑ってた。
それは、いつも誰かのそばにいて、いつも誰かのために泣いていたからだろうと今なら分かる。
それは自分が虐げられてきたからこそ、他人を虐げたくないという強い意志からだったんだ。
「なぁ、Aが好きだよ。」
「…うん。」
愛情深いからこそ、誰もそばには置かなかったんだな。
誰も自分の親に傷つけられないように。
でも、見捨てられなかった。
日々、傷付き、涙する友人たちを。
「先生があの日、来てくれてよかった。」
「うん…。」
「あの日でなければ、こんなに素直になれなかったと思うから。」
またぼふっと音を立てて俺の胸に抱きついてくるAをきつく抱き締める。
男なら俺が守ってやる、とか、もう傷つけさせない、とか言えればよかったんだろう。
でも、簡単には言えなかった。
美術の先生が言っていた"呪い"はまだAの中にある。
それはとてつもなく長い時間を要さなければ、解けないと思ったから。
「…やっぱり冬の海は寒いね。」
「うん。」
でも
「もう少しだけこうさせて。」
「…うん。」
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作者名：ゆーり | 作成日時：2017年12月14日 0時
