誰も知らない (ページ7)

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…………

金曜の夜。
最近はほぼ毎週末、翔ちゃんが開店前に店に電話をして、指名をくれる。

その時は指名の客が来るまで他の客を取らなくていいから、仕事が楽になる。

いつもの店奥の個室で。
スーツの袖に寄り添って。

「…翔ちゃん、最近は仕事どう？忙しい？」

「うん、大分いいよ、来年から昇給するかもって」

「そっか…翔ちゃんは凄いよね、まだ若いのに」

「…別に、そんなことないよ…」

翔ちゃんのグラスに氷を落として、
酒を継ぎ足す。

グラスをかき混ぜると、
強いウイスキーの匂いが部屋に広がる。

「…翔ちゃんはかっこいいし、優しいし、仕事もできて…

お嫁さんになるひとが、うらやましいな…」

こういった店で、客の恋人について話をするのはあまり良いことではないが、酔いがまわったせいか、思わず口にしていた。

「…雅紀、俺と一緒に暮らそう」

「…え？」

「俺はお前が好きなんだよ。店をやめてほしい。昇給もあるし、しばらくは俺が食わせてやれそうだから…ふたりで暮らそう」

突然の提案。
翔ちゃんとふたりで。

気持ちは嬉しかった。

でも、それはできないよ。

だって、俺はもうすぐ死ぬし。

いや、それだけじゃなくて。
それどころじゃなくて。

「…無理だよ」

「…何故？」

「俺はずっとこの仕事で食ってきたから…翔ちゃん以外の人とも、やるし…あんまり、キレイじゃないから…
翔ちゃんには釣り合わない」

「そんなの気にしてたらこんなこと言わねえよ！」

「それだけじゃないの！

…俺は、松本さんと暮らしてんだ…
と言うか、松本さんに育ててもらったから…」

｢は？何で？名字も違うじゃん｣

｢本当の親子じゃないんだよね…
その辺は複雑で…

だからこそ、恩があるし……
あの人はこの店の店長だし。
俺が店をやめる訳にはいかないと思う…」

「そんなの、俺が松本さんに言ってやるよ。よくわかんないけど…

客の頼みなら聞くだろ」

「…でも、だめだよ、やっぱり…
俺は…翔ちゃんには似合わないんだよ。

俺は…」