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次から次に流れる、松本の姿。
そのどれもが、俺を愛しげに見つめていて。
無理して酒を飲む俺を心配する時。
疲れて倒れた俺を、ベッドに運ぶ時。
眠っている俺の横で、頬を撫でている時…。
どうして俺は、
何ひとつ覚えていないのか。
どうして、
彼から与えてもらった愛情に気付けなかったのか。
実の子供でもないのに、ここまで育ててくれて。
どうして、こんなに俺を愛してくれたのか。
俺はそれを無視し続けた。
心の何処かで、
彼の存在を当たり前と思って、
冷たい部分だけに目を向けてきた。
「…これでもまだ、松本さんが貴方を愛していないと思う?
私は、彼は貴方の父親以上だと思うけど」
涙を拭きながら、頭を振る。
「あの人、よく言ってましたよ。
俺は、雅紀の親じゃないから。
本当の親が、俺みたいなやつだって思ったら、あいつも辛いだろうから、って」
“…俺はお前の父親じゃねぇから。
俺のことは松本さんって呼べ。”
物心ついた時から、そう言われてきた。
学校の行事にも当然来ないし。
でも、
俺をゴミ置き場に捨てたであろう実の親よりは、余程親の愛情を教えてくれていた。
「…だから、誰からも愛されないなんて、自分が幸せじゃなかったなんて、思わないで。これは、松本さんの…」
二宮の言葉の途中で、また画面が変わる。
『…雅紀に、俺が愛していたと伝えること。
雅紀を幸せにすること。
雅紀の代わりに、俺を…』
「おっと、ここは!」
二宮が死神から通信機(?)を奪い、
画面を切ってしまう。
画面では、松本が話途中だったが。
「…かずぅ〜…
もしかして、またやったのぉ?」
死神が、顔をしかめる。
「まさか!そんなことないですよ!
…それより相葉さん、
もうすぐ貴方の待ち人が来ますから!
松本さんの気持ちも分かって、
死ぬ準備も整ったことでしょ!」
「…かずぅ〜…」
笑いながら俺の肩を叩く悪魔二宮と、相変わらず顔をしかめる死神。
二宮の言葉の意味も分からないし、
それにもうすぐ出勤時間だ。
店に向かわないと…。
おかしい…。
死の瞬間は刻々と迫るのに、
どうしてこうも平和なのか…。
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作者名:紅碧 舞 | 作成日時:2014年12月16日 17時