検索窓
今日:3 hit、昨日:9 hit、合計:73,165 hit

ページ2

…………

「雅紀!指名だ!」

「はい!…」

同じような毎日の繰返し。
初めて店に出たのはいつだったろう。

座っていたソファーから立ち上がる。
それなりに広い、煙草の煙で薄雲る店内。ニヤニヤと談笑する男たち。

派手な装飾とBGMの間を通り抜けて、奥の個室へと連れていかれる。


「…雅紀」

「あぁ…!翔ちゃん!」

自分をここまで案内してきたボーイが…彼はここの店長だが…
一礼して下がって行く。

ウリセン。

そう呼ばれる店。

俺はずっと前から、ここで働いている。


「…翔ちゃん、今日は早かったね、仕事はもういいの?」

「うん、計画がスムーズに進んでて…少しは楽になりそうだよ、俺も」


彼は、櫻井翔。

中学校の同級生だった。
今は、若くして有名企業の重役になっていて、そして、俺の客であり、
“恋人”…。


「そっか、しばらく会えなかったから、ちょっと寂しかった」

「…ちょっとだけ?」

「…ううん。凄く」

スーツの腕に頬を寄せる。
彼とふたりのときだけ、幸せを感じられる。

中学卒業と同時に別れてしまってから、もう2度と会えないと思っていた。
昔から、大好きだった。
あのときの想いが叶うなんて、夢にも思わなかった。

…翔ちゃんさえいなければ、
俺はすぐにでも死んでしまうのに。

昼間に現れた死神の言葉を思い出す。

結局、
俺は幸せは何ひとつ掴めないまま、
人生を終えるんだ。


「…どこに行こうか」

翔ちゃんが耳元で囁く。

夜の街を出て、ふたりだけで。

夢のような、ふたりのとき。


「…抱いてくれるでしょ?今日は…」


長年この仕事をしてきて、身に付いた誘い方。

彼にだけは、こんな言い方をしなくていいのに。

ふとした瞬間、口をついて出てしまう。


「わかってる、いつも寂しがらせてごめんな…?」


彼が耳に唇を触れて、頬を撫でてくれる。

そのまま肩を抱き、出口へ向かう。


早くここから出て、
ふたりだけの場所へ連れていって…。

過去も未来も、罪も罰も。
全てを忘れられる時へ…。

3→←1



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.6/10 (40 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
51人がお気に入り
設定タグ:気象 , 櫻葉 , 大宮   
作品ジャンル:恋愛
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:紅碧 舞 | 作成日時:2014年12月16日 17時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。