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…………
「雅紀!指名だ!」
「はい!…」
同じような毎日の繰返し。
初めて店に出たのはいつだったろう。
座っていたソファーから立ち上がる。
それなりに広い、煙草の煙で薄雲る店内。ニヤニヤと談笑する男たち。
派手な装飾とBGMの間を通り抜けて、奥の個室へと連れていかれる。
「…雅紀」
「あぁ…!翔ちゃん!」
自分をここまで案内してきたボーイが…彼はここの店長だが…
一礼して下がって行く。
ウリセン。
そう呼ばれる店。
俺はずっと前から、ここで働いている。
「…翔ちゃん、今日は早かったね、仕事はもういいの?」
「うん、計画がスムーズに進んでて…少しは楽になりそうだよ、俺も」
彼は、櫻井翔。
中学校の同級生だった。
今は、若くして有名企業の重役になっていて、そして、俺の客であり、
“恋人”…。
「そっか、しばらく会えなかったから、ちょっと寂しかった」
「…ちょっとだけ?」
「…ううん。凄く」
スーツの腕に頬を寄せる。
彼とふたりのときだけ、幸せを感じられる。
中学卒業と同時に別れてしまってから、もう2度と会えないと思っていた。
昔から、大好きだった。
あのときの想いが叶うなんて、夢にも思わなかった。
…翔ちゃんさえいなければ、
俺はすぐにでも死んでしまうのに。
昼間に現れた死神の言葉を思い出す。
結局、
俺は幸せは何ひとつ掴めないまま、
人生を終えるんだ。
「…どこに行こうか」
翔ちゃんが耳元で囁く。
夜の街を出て、ふたりだけで。
夢のような、ふたりのとき。
「…抱いてくれるでしょ?今日は…」
長年この仕事をしてきて、身に付いた誘い方。
彼にだけは、こんな言い方をしなくていいのに。
ふとした瞬間、口をついて出てしまう。
「わかってる、いつも寂しがらせてごめんな…?」
彼が耳に唇を触れて、頬を撫でてくれる。
そのまま肩を抱き、出口へ向かう。
早くここから出て、
ふたりだけの場所へ連れていって…。
過去も未来も、罪も罰も。
全てを忘れられる時へ…。
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作者名:紅碧 舞 | 作成日時:2014年12月16日 17時