少年Aと擬似的ヒロイン論 ページ11
早く着替えなきゃと体育館を出る。
所詮学校の体育館のステージ。
着替えスペースなんてあるわけもないから会の間ずっと女の子の格好で落ち着かなかった。
「阿部くん！」
「目黒。」
駆け寄ってきてくれる目黒にひらひらと手を振る。
「こんな可愛い格好するなら先に教えてよ。
びっくりしたじゃん。」
「こんな恥ずかしい格好だから教えられなかったんでしょ！」
俺女装するから見てねなんて幼なじみに言うわけないだろ！
「いやだってさ。
まじで阿部くんすっごい綺麗じゃん。」
「なんか目黒に言われると照れるんだけど。」
この幼なじみは顔は勿論のこと、昔から発言も男前。
さすがに照れて頬が熱くなった気がして、冷たい自分の両手をぴとりと当てる。
で、２人で写真を撮ったんだけど、それが終わった途端、目黒からあいつの名前。
俺が最近会わないようにしてた、幼なじみ。
わざわざいつもより二本早い電車で行ったりしてたのに、こんな時に会うなんて。
「よお。」
なんて言ってこちらへ向かってくる。
でも格好もそうだし、ずっと会ってなかったのもあるしで、気まずくて目が合わせられない。
だけど、正直この格好の俺のこと、どう思ったんだろって、ちょっと気になる。
怖くて、聞けるわけないけど。
と思っていたら目黒が
「阿部くん綺麗でしょ。
佐久間くんもなんか言ってあげなよ。」
なんて言い出す。
「っ、…阿部ちゃん。」
「な、何…。」
佐久間の顔を見れないまま、心臓をバクバクさせながら次の言葉を待つ。
「その…上手だったよ、演技。
お疲れ様。」
佐久間から出たのは、格好のことなんか一つもなくて、劇のことだけだった。
クラスメイトだって、目黒だって、お世辞だろうとなんだろうと褒めてくれて。
だから佐久間も、もしかしたらって、心のどこかで思ってた。
ラウールみたいに好きになってほしいとまでは望まない。
本気で可愛いなんて思ってくれなくてもいい。
ただ、一瞬だけでも、ちょっとだけでも、魔法みたいな言葉をかけてほしいと思った。
ちょっとだけ、あの時愛されたラウールみたいになってみたいって、思った。
なのに現実は、気持ち悪いとさえ言われることもなく。
俺が何を着てようが、興味の一つも示されることはなく、終わった。
目黒も連れてかれ、俺は風ではためくスカートを、一人ぼんやりと眺めていた。
こびりついた未練がましさも、この風にのって消え去ればいいのに。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 634人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
葉子(プロフ) - めぐみみさん» こんにちは。甘いのってやり過ぎて安っぽくなったりしないかな？とか、わざとらしさぎない？とか不安になりながら書いているところがあるので、キュンキュンというお言葉本当に安心しました…！まためぐみみ様にキュンキュンしてもらえるように頑張ります！ (2020年6月5日 20時) (
レス) id: f3c5f4857a (このIDを非表示/違反報告)
葉子(プロフ) - くーあんさん» こちらにまでコメントありがとうございます！可愛く！可愛く！と唱えながら書いたので、感想嬉しかったです（笑）また書いた時にはぜひ読んでやってください！いつもパワーをありがとうございます！ (2020年6月5日 20時) (レス) id: f3c5f4857a (このIDを非表示/違反報告)
めぐみみ(プロフ) - こんにちは。さくあべの2人が初々しくて可愛いくてキュンキュンしながら読んでました。素敵なお話ありがとうございます。 (2020年5月31日 14時) (レス) id: 5685bea8d4 (このIDを非表示/違反報告)
くーあん(プロフ) - その後の可愛いさくあべデートありがとうございます！2人の初めての…が微笑ましくて！本当に葉子さんの作品大好きです。これからも作品楽しみにしています。 (2020年5月31日 0時) (レス) id: 678da13574 (このIDを非表示/違反報告)
葉子(プロフ) - ミッキーさん» お読みいただきありがとうございます！ファンだなんて恐れ多い言葉までかけていただき、感動しています。感謝の気持ちでデート編始まりました。まだデートに出発もしていませんが、お読みいただけたら嬉しいです。今後もこちらや他の作品など、よろしくお願いします！ (2020年5月30日 1時) (レス) id: f3c5f4857a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：葉子
| 作成日時：2020年5月22日 0時
