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『勝った、勝ったのに〜……!』
「はいはい、Aが言ったんだろ。
私もついて行ってあげるから、謝りに行きなさい」
嵌められた、と言わんばかりに悔しそうな顔をする。
まさに試合に勝って勝負に負けた。
しかし別にミクリが嵌めたわけではない。
確かにバトルをしようと言ったのはミクリだが、自分が勝ったらついて来て!と勝った際の条件を提示したのは紛れもない本人なわけで。
それをわかっているからか、彼女もミクリを責めることなく渋々と言った様子で足を動かしていた。
「そういえば場所は?
見当はついているのかい?」
『うん、カゲツに聞いた』
なるほど、場所を言われたうえでさっさと連れ戻して来いとでも言われたのだろう。
さてさて、この姉弟は仲直りできるだろうか。
そうは思いつつも、そのことに関してミクリはあまり心配してはいなかった。
この姉弟とも長い付き合いになるが、なんだかんだで仲がいいのはミクリも知るところである。
どうせこの喧嘩も、一時の台風のようなものだろう。
ルネシティから海を渡り辿り着いたとある洞窟。
それを前に、Aはごくりと息を呑んだ。
そして何度か深呼吸を繰り返す。
……身内に謝りに行くだけなのに、何をそんなに緊張しているんだか。
『ミクリ、前歩いて!』
「何で……」
『勝負に勝ったの誰?私!』
「はいはい」
全く、世話の焼ける。
自身を盾にするように歩く彼女にはミクリも苦笑いをこぼすことしかできない。
彼女は変なところで臆病なのだ。
そんなところも可愛らしいけど……なんて考えてハッとする。
……私はこんな時に何を。
思わずため息をついて額に手を当てる。
しかしAはそんなミクリの様子に気づく素振りすら見せない。
『……アイツ、どんだけ奥にいるの…よ』
ピタリ、足が止まる。
カンカン…と何やら音が聞こえて来たからだ。
その音の正体が何なのか……Aもミクリもすぐに理解した。
そして少しばかり足を進めれば……
見慣れた後ろ姿に、見慣れた彼の相棒たちが見えた。
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作者名:セレーナ・ラフィーネ | 作成日時:2023年3月15日 22時