第弐拾参話、犯人 ページ24
一週間ほど前。
とある高層ビルの屋上に森は来ていた。
見上げれば不格好な蒼月が夜空を拝むことができるが、生憎月見のために訪れたわけではない。
後ろに控える広津を一瞥した後、目の前にいる者に微笑んだ。
「お招きありがとう。良い月だね」
「はい、とても。こちらこそ、急な呼び出しに応じてくださりありがとうございます」
優雅にお辞儀する様は、洗練されたものだと一目でわかる。
体躯はしっかりと支えられ、背筋はまっすぐと。腰は程よく曲げられ、神経は指先まで届かせていた。
姿勢を直す時も同様、ブレがない。
何者であろうが、相手に礼儀を成す事は大事である。それは敬意を表すと共に、微塵の隙もない事を相手にわからせる意思表示だ。
森は笑みを浮かべたまま、「さて」と自ら切り出す。
「折角の夜に長話でも…と思ったけれど、私の部下は少々神経質になっていてね。存じているかは知らないが、組合戦の後処理に加え、気味の悪い事件と君からのお誘いに今にでも引き金を引きかねない」
脳内で近くのマンションの一室を浮かべる。
そこにいる狙撃手は、スコープを覗いて目の前の者の頭を狙っていた。安全装置は外され、引き金には指を置かれている。
妙な素振りを見せれば迷いなく引くだろう。
「私を呼び出した理由について、早速聞きたい」
「では申し上げます。気味の悪い事件の犯人は、この俺です」
左手の人差し指で自身を指差しながら言う。
ほとんど確信に近い予想はしていたが、あっさりとした告白に一瞬拍子抜けしつつもその後の言葉を待つ。
「庭を荒らしてしまったことに関しては申し訳なく思っていますが、如何せん獲物がちまちまと動き回る者で……本当、迷惑ですよね。大人しく喉を掻っ切られればいいのに」
ニコニコと笑みを浮かべながらサラリと物騒な単語を言う。
殺気も感じられない。
だからこそ不気味さを増していた。
広津は生唾を飲み込んだ。
「そこでですね、俺から貴方がたポートマフィアにお願いがあるんです」
「…どんなお願いかね」
「簡単です。この件について、一切の手出しをしないでいただきたい」
森が顔を顰める。
当たり前だ。
先程言った通り、組合戦の後処理を行っていることもありストレスは勿論、運びが上手くいっていない状況なのだ。加え、庭を荒らされてしまっては溜まったものではない。
断ろうと首を振ろうとした時、相手から静止の手が掲げられた。
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RANA(プロフ) - ゆかりさん» 遅くなりましたが続編で来ました!続編でも読んでいただけたら幸いです。 (2021年8月1日 21時) (レス) id: 1320bd10d0 (このIDを非表示/違反報告)
RANA(プロフ) - ゆめのあきさん» そう言って頂けて嬉しいです!ありがとうございます (2021年8月1日 21時) (レス) id: 1320bd10d0 (このIDを非表示/違反報告)
ゆかり - 続き待ってます (2021年7月23日 16時) (レス) id: be99c0bfdf (このIDを非表示/違反報告)
ゆめのあき(プロフ) - めちゃくちゃ面白いです! 更新楽しみにしてます! (2021年7月15日 1時) (レス) id: e1a96e1817 (このIDを非表示/違反報告)
RANA(プロフ) - らむくんさん» そうなんです……シリアスをシリアスにできずに本当に申し訳ないです切腹 (2020年8月14日 1時) (レス) id: 37ff009e06 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:RANA | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/my.php?svd=seb
作成日時:2020年8月2日 13時