伍幕 ページ8
『う〜ん、困ったなあ』
例外なく、Aも二人と違う部屋へ移っていた。
全く困った風には見えない表情で、中央にぽつんと立っている。
顎に右手の人差し指を当て、考える素振りを見せた。
『…鬼が三人、生きてる人間が六人か。あ、近くに一人いるね』
そう呟くなり、「よし、行こう」と廊下へ出た。
大正コソコソ噂話、その壱。
炭治郎は嗅覚の特化。
善逸は聴覚の特化。
彼等のように、Aは第六感なる感覚が特化している。
鬼や人間は勿論、動物全般や感情でさえ、対象の気配を感じ取る。加えて離れた場所でも大体の位置や場所は把握できる。
気配を頼りに、Aはある部屋の前で立ち止まった。
人の気配がするのだ。少し独特の気配が。
そして、まだ生きている。
中にいる人を驚かせてしまわないよう、あまり音を立てずに襖を開けた。
すると、柿色の着物を着た少年が目に入った。
『あれ。君は…』
「え?
…ヒッ」
Aに気付いた少年が手にある大きな鼓を叩こうと手を上げた。
けれど途中で止め、「化け物じゃ…ない…?」と不安そうにAを見る。どうやら化け物_鬼が入ってきたと思ったらしい。
襖を閉め、少年と目を合わせられるよう片膝をついた。
『驚かせてしまってごめんよ。私は兎氷A。君は、もしかしてあの子たちのお兄さんかな?』
「あの子達……てる子と正一か?」
『えーっと、二つ結びにした女の子と君によく似た男の子』
「てる子と正一だ!」
名前を聞いていなかったので特徴を言ったら、合っていたようだ。
青ざめていた表情が、安堵の表情に変わる。
よかったよかった、とA柔らかく笑む。
『君、名前は?』
「清…です」
『そっか、清さんか。よく一人で頑張ったね』
そう言った途端、清の瞳からぽろぽろと大粒の涙が溢れた。
一人でビクビクで鬼に怯えていた恐怖からやっと解放され、安心したのだ。
Aは目を数回瞬きさせた後、右手を伸ばす。
宙で一瞬静止してから、清の頭にそっと手を乗せてぎこちなく、けれど硝子細工を扱っているかのように優しく撫でた。
『…もう、大丈夫』
清が泣き止むまで、その手を止めることはなかった。
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RANA(プロフ) - 鴉蒼さん» ご指摘ありがとうございます。いつも注意しながら書いているのですが、時々見逃してしまいますので、またあったら教えてくださるとうれしいです。 (2020年4月6日 12時) (レス) id: 37ff009e06 (このIDを非表示/違反報告)
鴉蒼 - 富岡さんになってますよ…冨岡さんです… (2020年4月6日 9時) (レス) id: 96316f1cbb (このIDを非表示/違反報告)
サラダ(プロフ) - RANAさん» 教えてくれてありがとうございます!!楽しんで読んでます!更新頑張ってください! (2020年2月22日 20時) (レス) id: a856ca8d9b (このIDを非表示/違反報告)
RANA(プロフ) - サラダさん» "うすい"と読みます!!読みにくくてすみません (2020年2月22日 20時) (レス) id: 1320bd10d0 (このIDを非表示/違反報告)
サラダ(プロフ) - 夢主の名字の読み方がわからないのですが、、、出来れば教えてください!!! (2020年2月22日 20時) (レス) id: a856ca8d9b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:RANA | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/my.php?svd=seb
作成日時:2019年11月19日 0時