何時ものところで、とは。 ページ26
No side
ドアが開くと同時に、小さな鐘が鳴る。
織田作之助が階段を降りると、カウンターで誰かが酒杯を指で弄んでいるのが見えた。
その者は、織田が良く知っている人物。
「やァ、織田作」
ポートマフィア幹部__太宰治が嬉しそうに言った。
織田は手を掲げて返事をし、隣へ座る。頼んでもいないのに、バーテンダーは何時も飲んでいる蒸留酒のグラスを置く。
「聞いてよ織田作。また失敗したよ」
「失敗?」
詳細を聞くと、ポートマフィアの密輸品を横取りする愉快な連中がいるという情報を掴んだ太宰は、早速待ち伏せていた。ところが現れたのは、(太宰曰く)五円玉のようにパッとしない連中で、罠を張り包囲襲撃をしたら泣いて逃げたという。
「お陰でまた死にそびれた」と残念そうに頬杖をついた。
失敗という失敗はしていなかった。それは太宰個人による"失敗"。
まぁこの男に失敗したという業務はないのだが。
「その連中は何処の組織だった?」
「うちの元気っ子達が逃げ遅れた一人を捕まえたよ。今頃Aが楽しく嫌がらせをしているだろうから、直に吐くと思うよ」
「Aが?」
Aは太宰の通じて知り合った、中原中也の直属の部下である。
たまに太宰と一緒にこのバーに訪れ、飲む事があるが今日はいない。
その理由が今わかった。
「あの子は凄いよ。あと数ヶ月か一年もすれば、幹部になれるさ」
「ほう...」
感心したように呟く。
ふと太宰を見ると、新しい包帯が巻かれていた。
織田は酒杯を舐め乍ら、それを指さす。
「また傷が増えたな」
「増えたねぇ」
太宰は自分の体を眺めて嗤った。
太宰の体は常に修理中である。
単純に怪我だらけなのだ。
決して厨二病だから、というわけではない。
「額の包帯は?」
「"豆腐の角で頭をぶつけて死ぬ"という自 殺法を試したのだよ。お陰で組織の誰よりも豆腐の製法に詳しくなった」
この男、豆腐を自分で作ったのだ。しかも自前の厨房で。
やはり幹部ともなると、何処か格が違う。
織田は何気なく「その豆腐は美味いのか」と訊ねる。
「悔しいことに...薄く切って醤油で食べると物凄く美味しい」
「今度食べさせてくれ」
太宰という男は、何をやらせても常人には届かぬ戦果を挙げてしまうらしい。
その時、
「織田作さん...今のそれ、突っ込むところですよ」
丸眼鏡をかけた青年が呆れた様にそこに立っていた。
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RANA(プロフ) - 花雫@浮上中さん» ご指摘ありがとうございます! (2018年1月9日 0時) (レス) id: 4350057b28 (このIDを非表示/違反報告)
花雫@浮上中(プロフ) - あんの青鯖野郎です!えっと唐突な間違い指摘ごめんなさい (2018年1月8日 2時) (レス) id: f3cc68df07 (このIDを非表示/違反報告)
RANA(プロフ) - えーなさん» 14巻。表紙最高でしたね!次巻はやく販売しないかな()そして来年には映画ですね!それも楽しみなんですよ〜!! 続編、さっそくできました。応援ありがとうございます!頑張ります! (2017年12月10日 19時) (レス) id: 4350057b28 (このIDを非表示/違反報告)
えーな(プロフ) - いつも楽しく読ませてもらってます!14巻見ました!乱歩さんメインで私も幸せでした〜!そしてまさか探偵社の今後がめちゃくちゃ気になる終わり方で…!すみません、漫画の話はここまでにします笑 続編楽しみにしてます!頑張ってください! (2017年12月10日 19時) (レス) id: 2f759f2211 (このIDを非表示/違反報告)
RANA(プロフ) - まゆさん» ありがとうございます!頑張ります! (2017年11月16日 22時) (レス) id: fcafb99727 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:RANA | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/my.php?svd=seb
作成日時:2017年11月5日 22時