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「ここで大丈夫です」


その言葉にゆっくりと車を寄せて停める。慣れてないからかおずおずとドアを開け車から降りて彼女は少し屈んだ。


「今日はありがとうございました」

「いえ…」

「時々ポアロにお食事しに行くと思うのでそのときはよろしくお願いします」


張り付けたようなにっこりとした表情の彼女に焦りのような、わからないけどたぶんこのままじゃ駄目だという警鐘。


「じゃあ、おやすみなさい」

「あ、あのっ!」


ドアが閉まる直前。衝動的に引き止めた。不思議そうにこちらを見るAさん。

俺だってわからない。話したいことも何を話せばいいかも自分が何をしたくて彼女を引き止めたのかも。


ただ警鐘が鳴っている気がする。


「…迷惑、ではないので」

「え?」


頭は真っ白なはずなのに言葉は喉奥を震わせするすると吐いて出る。


「時間が合えばまた……今度は飲みにでも行きましょう」


本音か建前か気遣いか。自分でもわからない。ただなんとなく出てきたそれらにたぶん深い意味はないだろう。


「…いいですね、それ」


少し驚いてそれからすぐに眉を下げゆるく口の端を持ち上げた彼女は


「じゃあ、おやすみなさい」


それを合図に車のドアを閉め、彼女の姿が見えなくなってからゆっくりとアクセルを踏み込んだ。









家に入るまでの短い距離の中で鼻から思い切り空気を吸い込んだら泣きそうになった。


降谷くんは社交辞令で飲みに行こうなんて誘ってくれたんだろう。それでも嬉しかった。その気遣いが有り難かった。


今夜彼の話を聞いてからなんとなく今後話すことはないんだろうなと悟ったから。彼はきっと私のような一般人がホイホイと関わっていっていいような人間ではない。


だから今後降谷くんと二人で話すことなんて望めないんだろうと、諦めて、諦めきれずに縋ってしまった。


『またこうしてお話することはできますか?』


思い出して、笑えた。彼を困らせるとわかっていたのに。聞くだけならと弱さに溺れた。言葉にして怖くなって誤魔化した。


それなのに彼は。


『今度は飲みにでも行きましょう』


静かに鍵穴に差し込んで扉を開けバタンと後ろ手に閉まる音がした。真っ暗な部屋はぽっかりと開いた穴のよう。


怖い。一人は嫌だ。忘れたい。忘れたくない。どうしたらいい。どうしたい。

ぐちゃぐちゃで。ほんの少しの期待。



ベッドに倒れ込んだ身体はシーツに溺れた。

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理那(プロフ) - ありがとうございました。本当に素敵なお話でした。 (2020年7月7日 16時) (レス) id: db0db57d74 (このIDを非表示/違反報告)
かものはし子(プロフ) - お萩さん» コメントありがとうございます(*^^*)頑張っていきます! (2019年5月17日 22時) (レス) id: e4c7a737a2 (このIDを非表示/違反報告)
お萩 - わー!とっても素敵ですね!ふるやさんこわーい「棒」 これからも頑張ってください (2019年5月17日 20時) (レス) id: c0a94bdd1a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:かものはし子 | 作成日時:2019年5月16日 3時

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