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「こっちの方の会社に転職したきっかけに引っ越してきたんです」
「そうだったんですね」
Aさんがなぜポアロに訪れたのか。俺の疑問に彼女はなんでもない様に淡々と答えた。
「もうそれはそれは前の会社ブラックで。無理ー!ってなっちゃって」
自虐的に笑う姿に合わせとりあえず笑い返す反面よかったと冷静に思った。
彼女が引っ越してきたということはポアロに訪れたのも偶然ではなかったということ。詳細ではないにしろ大まかに別人として潜入捜査をしている内容を伝えられてよかった。
「じゃああの、そろそろお暇させていただきますね」
「はい。遅くまで付き合ってもらいすみませんでした」
「こちらこそ。ミルクティーすごく美味しかったです」
当たり障りのない会話は車に乗り込むまで表面的に続いた。
・
「家はどの辺りですか?」
「ここら辺の道わからなくて…。ポアロから車で10分かからないくらいのところなんですけど…」
「じゃあとりあえずポアロに向かいますね。道がわかったら言ってください」
「わかりました」
車を発進させるとなんとなくお互い口を閉ざした。助手席に座る彼女は窓の外を見ているようだ。
時間は23時前。
車はそこそこ走っている。暗闇の車内は時々ライトで照らされその度に視界の端に彼女の存在を浮き彫りにする。
今日、Aさんと話ができてよかった。
再会した当初は正直不運だと思ったがそれでも彼女が萩原のことを受け入れ今こうして生きているということを自分の目で確認できた。
「あ、この先の信号を右に」
「わかりました」
「そしたら左に脇道があって…」
「その道を進めばいいんですね」
「はい」
再び沈黙。たぶんもう家も近いんだろうと予想したとき。
「…あの」
「はい?」
少し震えた声が沈黙を破りたっぷり間を置いてから、
「……またこうしてお話することはできますか?」
窓に映り込む自身に話しかけているような言い方。吹っ切れたような。先ほどとは違う震えのない声。
でもすぐに
「…あは、ごめんなさい!ご迷惑ですよね!」
こちらにぱっと顔を向けた彼女をミラー越しに見ると彼女はにこりと笑っているのに
『抜け殻みたいだったよ』
『あの人、泣いてねぇんじゃねーかな』
彼女が萩原のことを受け入れたと思ったこと自体間違っていたんじゃないかと疑念が影を落とした。
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理那(プロフ) - ありがとうございました。本当に素敵なお話でした。 (2020年7月7日 16時) (レス) id: db0db57d74 (このIDを非表示/違反報告)
かものはし子(プロフ) - お萩さん» コメントありがとうございます(*^^*)頑張っていきます! (2019年5月17日 22時) (レス) id: e4c7a737a2 (このIDを非表示/違反報告)
お萩 - わー!とっても素敵ですね!ふるやさんこわーい「棒」 これからも頑張ってください (2019年5月17日 20時) (レス) id: c0a94bdd1a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:かものはし子 | 作成日時:2019年5月16日 3時