安室透の前で盛大にこけるところから始まる話

９ ページ10

「お待たせしました、梓さん。言われてた卵です」
「ありがとうございます、安室さん。それと、いらっしゃいませ。お一人様ですよね？」
『ひゃいっ！そうでしゅ！！』

美人店員梓さんと、イケメン店員安室さんの会話をぼーっと見ていると急に声をかけられた。
やってしまった。思いっきり噛んだ。
ねぇ、そこのイケメン。やめて。肩を震わして笑わないで。
わざとじゃないのよ。
緊張して噛んじゃっただけなの。
だから笑わないでよ。今すごく恥ずかしいんだから。

「ふふっ。そんなに緊張されなくても大丈夫ですよ。こちらへどうぞ」
『あ、りがとう、ございます』

笑った。今、ふわって笑ったわよ。
可愛い。好き。もう天使。

案内されたカウンター席に座ると、目の前に安室さんがやって来た。
え、私、梓さんに接客して欲しいのだけど。

「あからさまに嫌な顔をしないでください」
『だって梓さんが良かったんだもん』
「子供ですか」
『…あなたよりかは年上だと思いますけど』

ジロリと安室さんを睨むとキョトンとした顔をされた。
こっちもこっちでキョトンとした顔が可愛いわね。
さすがイケメン。

「…僕、いくつに見えますか？」
『23くらい』
「29です」
『え？嘘でしょ。年上かよ。子供っぽい』
「せめて童顔って言ってくれません？」

嘘でしょ。詐欺かよ。笑えない。
完全に年下だと思ってたのに、まさかの年上ってどういうことよ。
それなら私、年上に向かってすごい生意気な奴じゃない。
態度を変えるつもりはないけどね。

「Aさんはおいくつで？」
『女性に年齢聞くなんて失礼ですよ』
「…………」
『何ですかその目は。26です』
「随分言動が子供っぽ『黙ってください。ベビーフェイス』………」

そんなに睨まないでほしいわね。
童顔もベビーフェイスも変わらないじゃない。

なんとなく険悪な雰囲気が漂う中、梓さんがお冷を持ってきてくれた。

「ふふっ。安室さんと仲が良いんですね。ご注文はお決まりになりましたか？」
『仲良くなんてないですよ。私はむしろ、あなたの仲良くなりたいです。ハムサンドをお願いします』
「酷いですね。あなたを助手席に乗せてドライブするくらいの仲じゃないですか」
『誤解を招くような言い方やめてください』

梓さんに変な勘違いをされたらどうするのよ。
私は頑張って梓さんと仲良くなろうとしてるのに、邪魔しないでよイケメン店員。
ほら。だから、そのしょんぼりとした顔がダメなんだってば。

１０→←８

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す