あの夏この夏【瀬戸幸助】

No.02_1 ページ1

なんだっけ、これ。というか、そもそもなんであるんだ？
ホコリを指で拭い、つるりとしたレンズをなぞる。使い込まれた様子も無いが、枚数もないようだ。
押し入れの奥から出てきたカメラ。写真は撮らない人間なので、買うはずもなく、だからといって誰かから貰った記憶も無い。
こんな所に入れてあったくらいだ。大したものは写っていないに違いない。燃えないゴミの分類にしようとして、インターホンが鳴った。
私はカメラをローテーブルに置き、一年は履いているだろうスリッパをつっかけて玄関へと向かった。


「……あ」
ゴミ出しをして、荷物もまとめた。そこで見つけた先日のカメラ。存在をすっかり忘れていた私は、ゴミ収集車が走り去る音を聞きながらカメラを拾った。
持って行っても今後使わないだろう。いっそ燃えるゴミに出してしまおうかと思ってビニールに入れようとして、止めた。
どうせあと数日は暇だ。その間に現像でもしてみようか。出発の日に間に合わなかったらそのまま忘れたフリをすればいい。
我ながら名案だと鼻歌を歌いながら知り合いに連絡し、お店を紹介してもらう。
夏風が色褪せたカーテンを機嫌良く揺らし、それに釣られて私もほんの少し頬肉を上げた。今日は古くからの友人達との食事だ。この前買った新しいワンピースを着ていこう。普段はつけない、テラコッタのリップにきっと似合う。
私はカメラを窓辺に飾り、夏の匂いにそっと目を閉じた。
恨めしいほどの、青い夏だった。

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