第112話 君が残してくれたもの ページ35
部屋に戻ると、メイとフィアがきゃっきゃ、とはしゃぎながらお絵描きをしていた。ルカがその様子を眺めるかのように向かい側に座る。どうやら、トラルークとの事で説得を図っているようだ。
じゃじゃ馬王女はルカに任せる事にして、マリアとレイラは壁際に行き、貿易の品について話し始めた。
「とりあえず、他の国が既に儲けているものはダメよね。どうしましょうか」
二人でうーん、と唸る。話し合いは、早くもそこで停滞してしまった。
横から、ルカたちの会話が聞こえてきた。
「メイ、それは何だ?」
少女は何色もの色鉛筆を握って、懸命に何かを描いている。
「むかし、お母さんがこんな模様のハンカチをもってたの! きれいだったなあ…」
正直、メイの画力ではただのぐちゃぐちゃの線にしか見えないが、ルカはそれを興味深そうに眺めていた。マリアたちも気になったようで、テーブルを覗きにきた。
カラフルな模様を見たマリアは、初めは頭に?を浮かべていたが、じっくりと見入っているうちに、「あっ!」と小さく声をあげた。
「どうしたの? マリアちゃん」
「これ………」
そう言ってマリアは部屋を飛び出した。皆、怪訝そうに顔を見合わせる。
少しすると、マリアは美しい独特の模様が織り込まれた膝掛けを手に持ってやってきた。
「マリアちゃん、それは?」
「……マーサさんがくれたんです」
それを聞いて、4人はしんとなった。
口に出すこともははばかられるようなその名は、選挙回りの旅の途中で、御者を装い、マリアたちを手にかけようとした暗殺者の名前だったのだ。
「そう、あの人が…」
レイラは、感情のない様な声でぽつりと呟く。
彼女を懐かしむ事も、怒りを露にして罵倒する事も、何だか許されないような気がしたのだ。
金髪の少女は、膝掛けを大事そうにぎゅっと抱きしめた。これは、夜が冷えて寒いと言っていたマリアに、マーサがくれた物だ。
『ホント寒がりだね〜、マリア。私は何ともないけど。そうだ、これあげるよ』
『わぁ…綺麗な模様! でも、見たことないなぁ。どこに売ってるんですか?』
『これ、私が作ったの』
『えぇっ!? すごい!
ありがとうございます。明日洗濯してお返ししますね』
『いや、いーよ。あげる』
『え? でも…』
『もらってよ、マリア』
その時のマーサはいつもとは違い、儚げな表情をしていた。
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ちぇりい(プロフ) - のどかさん» コメントありがとうございます! 続きを更新できるように頑張りますので、これからもよろしくお願いします! (2015年11月5日 6時) (レス) id: 19c12415ef (このIDを非表示/違反報告)
のどか(プロフ) - お久しぶりです!この小説も第三弾ですね、前回の展開がやばすぎて(フィアちゃんかっこよすぎですよ。)これからも頑張ってください!続きが気になって仕方ないですー! (2015年11月3日 22時) (レス) id: c4d22bd61b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ちぇりい | 作成日時:2015年11月1日 17時