第39話 打ち砕かれた野望 ページ48
「ハァ、ハァ…」
ステージ裏にて、ルビソン・マーティンは酷く動揺していた。
今回の選挙で自分の敵はいないと思っていた。煌の援助を受けた自分が、負ける筈はない。傘下入りによる安全な生活を銘打った政策を掲げれば、今までの悪政で疲弊しきった国民はすぐに食い付いてくるだろう、と安心していた。
それがどうだ。自分の計画は、たった一人の少女によってぶち壊されようとしている。
(くそ、何で俺がこんな目に。念のため、あの少女には暗殺者を差し向けたと部下が言っていた筈だ。もっと確実に仕留めさせておくべきだったか…)
ルビソンが壁にもたれ掛かり頭を抱えていると、金糸の様な美しい髪を持つ少女が、歩いてきた。その人物は、今から自分を地獄へと叩き落とそうとしている歌姫だった。演説を終え、舞台裏に戻ってきたらしい。
まだ緊張が抜けていないせいか、おぼつかない足取りが、今はとても憎らしく見えた。
少女は、ルビソンの方をちらりと見たが、特に気にしていないといった様子で、通り過ぎようとしたが、男は下を向いたまま彼女を呼び止める。
「おい」
演説の時とはまるで違う、地の底から響いてくるような低く恐ろしい声音だ。
少女はその声に威圧され、恐る恐るルビソンの方を見た。
「今すぐ辞退しろ」
「……それはもうできません。今、ちょうど投票が行われています」
金髪の少女――マリアは、激情的な男の言葉にあくまで冷静に答えた。
ルビソンは、心底悔しそうにぎりぎりと歯軋りをする。
「ふざけるな。ふざけるなふざけるなふざけるな！ これは国の問題なんだぞ。貴様のような小娘が、易々と首を突っ込んで良いような事じゃないんだ。大人に任せておけば良い。この、ルビソン・マーティンに！
…俺は煌から金を借りてるんだぞ!? 俺が負けたらその金はどうなる!? 貴様とは背負ってるものが違うんだよ！ お前なんかに、俺の気持ちがわかるか！！」
ルビソンは本性を表し取り乱した。汗と涙でまみれた顔には、乱れた髪がべったりと張り付いている。
マリアは、その狂気を孕んだ瞳をしっかりと見据えて言った。
「あなたはお金が絡んだ汚いことをしたけれど、国民のことは考えていると思っていた。でも、違ったんですね。…あなたは結局、自分のことしか考えていない。そんな人に、国を治める資格はありません」
少女はそう言い捨てると、ルビソンの横を静かに通り過ぎた。
男はへなへなとその場に座り込み、ただただ無様に涙を流すしかなかった。
第40話 Pray for happiness→←第38話 歌のちから
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ちぇりい(プロフ) - ノルネットさん» コメントありがとうございます。すみません、話的にどうしても名前の決定が必要でした。皆様には主人公ではなく読者としてこの作品を見ていただきたくて…ご期待に添えず申し訳ありません。 (2016年2月16日 19時) (
レス) id: 19c12415ef (このIDを非表示/違反報告)
ノルネット - 名前変換ができると嬉しいです！ (2016年2月6日 23時) (レス) id: ed849dd137 (このIDを非表示/違反報告)
ちぇりい(プロフ) - ユートピアさん» コメントありがとうございます！ 更新頑張るので、どうかこれからもよろしくお願いいたします！ (2015年5月17日 9時) (レス) id: 19c12415ef (このIDを非表示/違反報告)
ユートピア - とてもおもしろいです！続き楽しみです！頑張ってください (2015年5月16日 22時) (レス) id: afcfdd1663 (このIDを非表示/違反報告)
ちぇりい(プロフ) - のどかさん» はい！ 私も早く紅炎様を出したい一心で機をうかがっております。。 選挙編頑張って書きます！ (2015年4月22日 23時) (レス) id: 19c12415ef (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ちぇりい | 作成日時：2015年3月1日 9時
