息抜き 紅炎様との夏の思い出�� ページ38
紅炎さんに妻子がいることを知っても、私は彼に会うことをやめなかった。
別に彼を奪おうとかそういうことを考えているわけじゃない。ただ私は、このひと夏の間だけでも、一緒にいたかったのだ。
「何を考えている？」
寝台の上に座っている私を、紅炎さんが覗き込んできた。
私は今、彼が滞在している宿舎に来ていた。部屋に招かれたときは、何かあるかもしれない、と少し期待していたのだが、そんなことはなかった。彼が研究している考古学の資料を一緒に見て、彼の饒舌に耳を傾けただけだ。
ずっとドキドキしていた自分が恥ずかしい。現にもう日は暮れかけているので、そろそろ祖父母の元へ戻らなければならない。
「あなたのこと、考えてた」
私は込み上げてくる切ない想いをこらえながら、ぽつりと言った。
「ほう？」
彼が興味深そうにニッと笑い、私の隣に腰掛ける。寝台がギシリ、と揺れた。
「いつ帰るの」
「休暇が終わるまでには」
「離れたくない」
「…急にどうした」
紅炎さんは優しい声音で語りかけ、私の肩を抱いた。大きな手で包まれた私は、思わず泣いてしまった。
それからのことは、うろ覚えだ。
どちらから唇をくっつけたのかはわからないが、キスをした。はたまたどちらから誘ったのかはわからないが、体を重ねた。
夏の暑さのせいで、火照って少し汗ばんだ身体から、彼の熱が伝わってきた。求め合う度に、寝台が音を立てた。
私は、彼とひと時でも一緒になれたことのうれしさと、別れが辛いという悲しみで、終始ずっと泣いていた。
◇◇◇
夏休みが終わりに近づき、都会に帰る日がやってきた。
私は一人で船着き場で海を眺めていた。
彼には、今日出発することは知らせていない。だから来るはずもない。
少し安心している自分がいた。だって、もう一度彼の顔を見たらまた泣いてしまうから。家庭を持つ男にすがり付く弱い女、とは思われたくなかった。せいぜい、一回寝た女程度の思い出で留めておいて欲しい。いいや、いっそもう私のことなど忘れてもらっても構わない。
私は、あなたのことを永遠に忘れられないだろうけど。
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ちぇりい(プロフ) - ノルネットさん» コメントありがとうございます。すみません、話的にどうしても名前の決定が必要でした。皆様には主人公ではなく読者としてこの作品を見ていただきたくて…ご期待に添えず申し訳ありません。 (2016年2月16日 19時) (
レス) id: 19c12415ef (このIDを非表示/違反報告)
ノルネット - 名前変換ができると嬉しいです！ (2016年2月6日 23時) (レス) id: ed849dd137 (このIDを非表示/違反報告)
ちぇりい(プロフ) - ユートピアさん» コメントありがとうございます！ 更新頑張るので、どうかこれからもよろしくお願いいたします！ (2015年5月17日 9時) (レス) id: 19c12415ef (このIDを非表示/違反報告)
ユートピア - とてもおもしろいです！続き楽しみです！頑張ってください (2015年5月16日 22時) (レス) id: afcfdd1663 (このIDを非表示/違反報告)
ちぇりい(プロフ) - のどかさん» はい！ 私も早く紅炎様を出したい一心で機をうかがっております。。 選挙編頑張って書きます！ (2015年4月22日 23時) (レス) id: 19c12415ef (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ちぇりい | 作成日時：2015年3月1日 9時
