息抜き 紅炎様との夏の思い出�� ページ37
夏休み、私は祖父母の田舎に遊びに来ていた。
特に何もすることが無いので、今はなんとなく海辺を散歩している。辺り一帯に響くのは、蝉の鳴き声と、潮鳴りだけだ。
時々優しく吹いてくる風で、私の白いワンピースがひらひらと揺れる。
「あ」
突然強い風が吹き、私が被っていた麦わら帽子が飛んでいってしまった。
どこにいったのだろう、と思っていると、赤い髪をした大柄な男性が、私の帽子を持っているのが見えた。
びっくりした。いつからここにいたんだろう。さっきまで人の気配なんて全くなかったのに。
男の人は、手に持った麦わら帽子と私を交互に見つめると、こちらに向かって帽子を差し出してきた。
「あ、すみません。ありがとうございます」
私は彼に近づき、お礼を言って受け取った。
「名は」
「？」
「名は何と言う」
突如そう尋ねられたので、私が自分の名前を言うと、彼も低く澄んだ声で教えてくれた。
「俺は練紅炎だ」
◇◇◇
その日から、私と彼は海辺で会うようになった。
彼は大企業の御曹司で、夏の間だけこの田舎で考古学の研究をしているらしい。たまにその話を持ち出すと、まるで人が変わったかのように饒舌になる。私は考古学についてはよく知らないのだが、話をしている彼はとても楽しそうだったので、私はそんな彼を見るのが好きだった。
「本当は考古学者になりたかったんだがな。身内に猛反対されて結局諦めた」
紅炎さんは、遠い目をして寂しそうに呟いた。
「今からでも遅くないんじゃないんですか？
えっと、その…大胆かも知れないけど、家族も地位も全て捨てて、旅に出る…とか」
許されることなら、私も連れていって欲しい。あなたと一緒に生きたい。胸の奥でそう思った。
私は、この数日間であっという間に彼の虜になっていたのだ。
うっとりするような、低く美しい声音はいつまでも聞いていたい。全てを見透かしたような切れ長の瞳で見つめられると、吸い込まれそうになる。考古学の話をしている時の、無邪気な子供のような笑顔が好き。たまに見せるどこか寂しそうな表情を見ると、切なくなる。
こんなにも、誰かを想ったのはいつ以来だろうか。いや、きっと初めてだ。
「それは叶わんな。自立した今、親から離れることなら容易だが…
俺には妻と娘がいる。彼女達を置いていくことは出来ない」
彼と共に生きていく、という私のささやかな希望は、波に呑まれて一瞬で砕け散ってしまった。
- 金 運: ★☆☆☆☆
- 恋愛運: ★★★☆☆
- 健康運: ★★★★★
- 全体運: ★★★☆☆
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ちぇりい(プロフ) - ノルネットさん» コメントありがとうございます。すみません、話的にどうしても名前の決定が必要でした。皆様には主人公ではなく読者としてこの作品を見ていただきたくて…ご期待に添えず申し訳ありません。 (2016年2月16日 19時) (
レス) id: 19c12415ef (このIDを非表示/違反報告)
ノルネット - 名前変換ができると嬉しいです！ (2016年2月6日 23時) (レス) id: ed849dd137 (このIDを非表示/違反報告)
ちぇりい(プロフ) - ユートピアさん» コメントありがとうございます！ 更新頑張るので、どうかこれからもよろしくお願いいたします！ (2015年5月17日 9時) (レス) id: 19c12415ef (このIDを非表示/違反報告)
ユートピア - とてもおもしろいです！続き楽しみです！頑張ってください (2015年5月16日 22時) (レス) id: afcfdd1663 (このIDを非表示/違反報告)
ちぇりい(プロフ) - のどかさん» はい！ 私も早く紅炎様を出したい一心で機をうかがっております。。 選挙編頑張って書きます！ (2015年4月22日 23時) (レス) id: 19c12415ef (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ちぇりい | 作成日時：2015年3月1日 9時
