黄色短編集 (ページ32)

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スピカ　　　☆5 ページ32

「――――どーしたの。」

珍しい行動に、つい尋ねる。

でもホントは、何となくその理由も分かってる気がしてる。
私のイタイ勘違いでなければ。

「・・・・・・・いや、別に。何でもない。」

そうは言いながらも、抱きしめたまま動かない。

私はそろそろと彼の背中に手を伸ばし、ただ添わせるように抱き留める。

「――――私なら、大丈夫だよ。」

彼の鼻から小さく息が洩れたのが、首元の髪にかかった。

「いつも通りにしてるから、大丈夫。」

先日、彼の仕事仲間のプライベート情報が漏れた。
一瞬にして世間は大騒ぎになった。

その代償は小さくなかった。

・・・・というか、大きかった。大き過ぎた。

その後の対応が全て、あまりにもリアルに身につまされた。見ていられなかった。ツラかった。

他人事じゃないから。
いつ私たちの身に起こってもおかしくないことだから。

「・・・・・・・・うん。」

知ってる。

と小さく呟く声が聴こえた。

知ってるの、知ってる。

私も頭の中で呟く。

二人のこと、見つからないようにって彼が注意をいろいろ払っていること。
それを分かってる私が、考え得る限り気を配っていること。
それをまた、分かってる彼がいること。

――――私たちって、めんどくさいねぇ(苦笑)

彼の手が、私の左肩に掛かる髪をサワサワと掻き分ける。
何かを探すように、掻き分ける。

やがてその手は私の後頭部を支えて、彼の方へと引き寄せる。

ゆっくりと唇が近付いて、重なった。

そしてゆっくりと離れた。

「・・・・・・めんどくさいよなぁ(苦笑)」

　

ちょっと悲しそうな笑い顔しながら洩らした言葉。

「お。」

「・・・・何。」

「ハッピーアイスクリーム。」

「はい？」

「今おんなじこと、思ってた。」

「それ、同じタイミングで同じこと言った時に言うヤツだろ。この場合は違うでしょ(笑)」

「そっか(笑)」

目の前の、少し目にかかる長さの彼の前髪を指でチョイチョイと分ける。

いつもの、全部見透かしてるような、だけどそういうことも全部「見てないよ」って言う目が私を見てる。

私だけを見てる。

だから、いいの。
それだけでいい。