PARACAGE 4th【ars】 (ページ9)

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114.それだけ。ページ9

ある日曜日。
仕事を終えた私は、ロッカールームでスマホを出した。

LINEが届いている。
テラハウスのグループライン。
開いて、思わずプッと笑ってしまう。

『冷やし中華始めました』

潤くんから。

きっと、今日の夕飯が冷やし中華なんだろう。
週末、潤くんがご飯を作ってくれる日はこうやって連絡が来る。
いるのかいらないのかの確認で。
もちろんお休みの日だから潤くんが遊びに出掛けてて居ない日もあるんだけど、そーゆー時はちゃんと『今日は遅くなる』とかって連絡を入れてくれる。
律儀でマメな人。

ご飯に関しては在宅組は直接本人に返事をしてるから、返信は仕事で家に居ない事の方が多い私と雅紀くんだけ...とゆーのが常。
今日も潤くんからのメッセージに返信は1件も無いから、3人は家に居るらしい。

私はその場ですぐに『食べます！』と返信して、帰る準備。
すると、同じ時間に上がったアカリが「お疲れー」と近寄ってきた。

「A、この後飲みに行かない？」
「あー...ごめん！ちょっと予定あって...」

あと三分早ければ良かったんだけど...

「なになにー？もしかしてデート？」
「彼氏いないの知ってるくせに」
「デートは彼氏じゃなくてもするでしょー！殿方と2人で食事...はデートだし」
「そんなんじゃ無いし」

アハッて笑うと、「怪しいなぁ」って体を擦り寄せて来る。

「んー...家でね、ルームメイトって言うのかな、一緒に暮らしてる子がご飯作ってくれてるから...」

嘘、ではない。
全部本当のこと。
ただ、そのルームメイトの性別を言ってないってだけで。

「へぇ！良いね、料理好きな子が居るんだ！」
「うん、すっごく料理上手でねぇ」

ちょっとSっ気たっぷりな人なんだけどね。

「女子力高いね！」
「うん...確かに女子力は高いかも...」

男子だけどね。

「あー、やっぱ気になるなぁ。Aんち」
「普通だよ！...普通、普通」
「えー？シェアハウスって普通？」

ケラっと笑ったアカリが「じゃ、仕方ないからヒロシでも誘うかー」なんて言って、ヒロシ君に電話をかけ始めた。
私ももう一度、スマホを見る。

「あ...」

私の返信の後に、もう1件の返信。

『俺も食べる！冷やし中華～』

雅紀くんからだ。
何だか変なスタンプも一緒に。

今日は雅紀くん、家に帰って来る。
帰って来て、一緒にご飯を食べる。

それだけの事が嬉しくて、それはやっぱり『それだけの事』では無くて。

家に帰る私の足取りは、頗る軽い。