107．気持ちも知らねーで ページ7
ふらふら。そんな効果音が似合うくらいの覚束ない足取りで風に当たりたいと外へ向かう。このまま行方不明にでもなるか、なんて自嘲の笑みを浮かべながら歩いていると「おい！」と背後から声をかけられた。
「……隼人」
「A！……ってめ、なんつー顔して」
心配そうに眉を下げたと思えば顔を赤くさせる隼人。どうして悩み事があるときに限って隼人に会うのかな、と口を結ぶ。
火照った身体に隼人との再会は心地よかった。……血の気が引く先ほどの光景を意識せずとも思い出してしまうから。耳に染み付いて離れない京子の「好きな人ってやっぱり獄寺君だったんだぁ」と安心したように笑うあの声。
何、あの表情。まるで私が隼人と結ばれることを願っているような、なんて。ただ単に親友の幸せを願っていたであろう京子のことが頭に浮かぶ。彼女の些細な言動でさえ疑ってしまうくらいに私はどうかしているらしい。天然は何を考えてて何をしでかすのかよく分からないから怖いんだよ……。
「また何かあったのかよ」
「……別に、逆上せただけだよ」
「じゃあ、何でこんな所いんだよ」
眼鏡をかけて髪を結わえている様子から、レシピを見ながら料理を作ろうとしていたことが想像できた。隼人は料理のことになると不器用になるんだよなぁ。昨日キッチンを黒焦げにした犯人がなんとなくわかる気がしたが、気にせず「隼人こそ、どうしてここに？」と問いかけた。
「はぁ？」と呆れたように目を細める彼は、料理を作ろうとしたが案の定断られたため食料庫にカップ麺を取りに行く途中だと言う。
「カップ麺じゃ、栄養足りないでしょ」
「仕方ねぇだろ。それでも女子共に事実を言うわけにはいかねーんだ」
「……そっか」
「あいつら10代目の気持ちも知らねーで……」
拳を握りしめて俯く隼人。そんな彼に「綱吉の気持ちなんて知るわけないじゃん……」と呟くと、私の表情を見てか開きかけた口をゆっくりと閉じる隼人が視界に入った。
そんな気まずい空気が嫌で、ボイコットは一時休戦になったよ、と伝えたくても私が言うべきではないかと口をつぐむ。暫くして「……つーか」と突然沈黙を終わらせた彼を見上げた。
いつの間にか隣に移動してきていた隼人と薄暗い通路で顔を見合わせる。彼は申し訳ないとでも言うような表情で「10代目にてめーが未来のこと知ってるって言っちまってよ」と口を開いた。
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作者名：√A | 作成日時：2022年8月22日 13時
