118．……冗談？ ページ18
＿＿俺、ユキナのこと好きだよ。
パチ、と目を開けるとぼんやりとした視界に天井が広がっているのがわかった。今まで寝てたのか、と考えていると目元を流れる涙に気がつき慌てて拭う。
懐かしい夢を見ていた。お父さんを喪ったばかりのあの頃、綱吉が私に言ってくれたあの嬉しい言葉。忘れるはずもないあの日のことは、綱吉はきっと覚えていないだろうな。……だけど、よりによってこんなときにあんな夢をみるなんて、と自嘲の笑みを浮かべる。
「……ぁ、隼人」
何気なくベッドサイドに視線を落とすと腕や足を組んで寝ている隼人がいた。そんな彼を見てふと先ほどの記憶が頭を過る。
“振られるのって、辛くて苦しくて、痛いね”。そう笑った私の言葉に、隼人は見たこともないような切ない表情をして、ただ黙って頭を撫でてくれたんだっけ。
「……ん」
「ごめん、起こした？」
じっと彼を見つめていると、視線に反応したのか隼人が目を覚ました。私の問いには答えず「熱は？」と聞いてくる彼に「なに、起きてすぐ心配？」と嬉しさから思わず笑ってしまう。
……隼人を傷付けてばかりだというのに、こんな私を心配してくれる彼の優しさに胸が締め付けられたような気がした。
「てめー！せっかく人が心配してやってんのに」
「嬉しいんだよ、ありがとう」
そんな会話をして暫く無言が続いた。急に気まずくなり掛け布団を握りしめていると「……さっき姉貴がよ」と隼人が沈黙を破った。
うん、と相槌を打ちながら彼と目を合わせる。「それ置いてったぜ」そう言った隼人の視線の先にはテーブルの上に置かれたお粥と薬と野菜ジュースがあった。どうやら京子達がわざわざ作ってくれたらしい。
お礼を言わなきゃ、なんて考えていると「今、食べられんのか？」と声をかけられる。食べたいと言えば、近くまで持ってきてくれるつもりだったのだろうか。
「動きたくないから、今はいいや」
「……食べさせてやろーか」
「……冗談？」
「……当たり前だアホ」
心地よい空気感に思わず頬が緩む。横になったまま見上げる隼人の顔は見慣れないもので、思わず「かっこいいよね、隼人って」と口に出してしまう。
女子が隼人をイケメンってよく騒いでる理由がわかるかも、なんて笑うと彼は「勝手に騒がれても困るぜ」と苛立ちを隠さずに呟く。そんな終始真顔の彼の表情を崩したくなって、「……私が騒ぐのもいや？」なんてずるい問いかけをした。
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作者名：√A | 作成日時：2022年8月22日 13時
