117．私、振られたよ ページ17
「Aが無事でよかったわ。今ツナと探しにいこうと思ってたところだったの」
「……A、大丈夫なの？」
様子のおかしい私に違和感を感じたようで、綱吉の震えたような声が聞こえてくる。今まで通りにAと呼んでくれる嬉しさや、声をかけてくる綱吉のあまりの“普通さ”に悲しみが溢れた。
ぎゅ、と思わず握りしめた隼人の服。その行動に反応した隼人は私を抱き寄せる腕に力を込めて「昨日湯冷めしてた癖に、今日もこんな薄着で外に出るから風邪が悪化したんスよ」と答える。
「え、昨日って？」
「風呂上がりにフラフラしてやがったんで」
「……そうなんだ」
「A」そんな綱吉の声を平常心で聞けるほど私は大人じゃなかった。思い出すのは、私の気持ちにごめんと謝る彼の姿。忘れたい感情が一気に胸を締め付けて今にも涙がこぼれ落ちそうになる。
鼻をすすりながら「私は大丈夫、ごめんなさい」と呟くと、鼻声の私に違和感を持ったのかビアンキさんが「謝らなくていいのよ。あなたが無事でよかったわ」とその場の空気を変えるように笑った。
「俺、A……」
「さぁツナ！Aも戻ってきたことだし、あの子達に伝えにいくわよ」
「っうわ、ちょっビアンキ！」
私と最後に会ったという綱吉。彼と何かあったと察したのか何か言いかけた綱吉の言葉を遮ったビアンキさんは、半ば無理やりこの場から彼を連れ出してくれた。
「隼人！Aが風邪を引いてるのなら医務室に運んでちょうだい」
「言われなくてもわかってるっつの！」
大声で会話する二人に罪悪感で胸が苦しくなる。誰にも迷惑をかけるつもりもなかったのに、振られて一人になりたくて帰らなかった挙げ句、こんな大事な時期に風邪までひいてしまった。
「……ごめん、隼人」と握りしめていた彼の服を離すと、そこはしわくちゃになっていた。歩けるから下ろしていいよ、と隼人に体重をかけながら言うも、彼は医務室までの道のりを無言で歩き続ける。
「……10代目、様子変だったな」
医務室のベッドに私を下ろした隼人が、アジトに着いて初めて私と言葉を交わす。河川敷で綱吉と何があったのかを言わないことが正しいのかわからないまま、抱えきれないほどの辛い気持ちを誰かに伝えたくて「私、振られたよ」と口を開いた。
「振られるのって、辛くて苦しくて、痛いね、隼人」今できる精一杯の笑顔を作ると、息を飲んだ音が聞こえると同時に、切なくなるほど温かい手が頭の上に置かれた。
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作者名：√A | 作成日時：2022年8月22日 13時
