116．帰りたくない ページ16
ゆさゆさゆさ。身体が熱い、とぼーっとした頭で手元にある布を握りしめる。そのとき「A？」と頭上から声をかけられ酸欠で思考が働かないまま誰の声だっけ、と記憶を辿った。
「は、やと」
「やっと起きたか、今アジトに向かってんだ」
「……」
「A？」
夢を見ているのだと思った。ふわふわとした感覚に心地よい揺れ。さっきまですごく辛いことがあった気がするのに、思い出そうとすると頭痛が襲って考えられない。モヤモヤと残る心の痛みを少しでも和らげたくて、温かい彼の体温を求めるように隼人の首へと腕を回す。
「お、おい！もうすぐアジトだぞ、離れねーと誰かに」とどこか意識の遠くで聞こえる隼人の声に、夢の中くらい誰かに甘えさせてよ、なんて考えながらぎゅっと腕に力を込めた。
「きつい……熱い」
「ったく、この時期にあんなとこでじっとしてるから風邪なんかひくんだよ」
ぶつぶつ、と何か言っている隼人の声がぼんやりと聞こえる。“風邪”という単語が耳に残り繰り返すように「……風邪？」と口に出した。そのまま「急に倒れやがって、さっきは冷や汗かいたぜ」と続ける隼人の首元に顔を埋める。
ドクドク、と彼の脈拍を皮膚越しに感じながら「帰りたくない」と思わず呟いてしまう。その言葉が自然と自分の口からこぼれた瞬間、綱吉に振られたことを突然思い出した。
「……A」
「…………」
一気に現実に引き戻されたような感覚と同時に、ぼんやりとしていた意識がはっきりとする。振られた事実を思い出して胸が張り裂けそうになっていると、私を抱きかかえる彼は突然立ち止まった。
アジトに戻ったら綱吉とどのように顔を合わせるべきなのだろう。今までどう接してきたのか思い出せないくらいに動揺している私は、アジトまでの道のりを黙っていることしかできなかった。
「隼人！Aは！？」
「……姉貴」
「あの子達に聞いて……ってA！」
アジトについてすぐにビアンキさんの焦ったような声が聞こえてきた。泣き腫らした自分の顔を誰にも見られたくなくて、隼人にしがみついて顔を隠す。
「何があったの？」と言うビアンキさんに「風邪が悪化してやがったんだよ」と答える隼人に優しさを感じながら彼の服を握りしめていると、聞きたくなかった声が聞こえてきた。
「A……っ、獄寺君」
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作者名：√A | 作成日時：2022年8月22日 13時
