淀みに浮かぶ泡沫は…其ノ肆 ページ18
――上条は、また同じ夢を見ていた。
自分が、拳銃を持たされたホームレスを喰う。
断末魔を明かりのない部屋に響かせ、命を絶っていく。
だが今度は違う。何処かから、話しかけられるのだ。男の声で、優しそうな、まるで父親のよう。
しかし、上条は分かっていた。
どんな言葉であっても、空間の隔たりがある時点で恐れられているのだ。それは、父親のフリをした唯の他人だ。
だが体は、心は彼に従おうとする。彼がいなければ、きっと“生きていけない”から。
人を喰わなくても生きてはいけるけれど、この漠然とした感覚に合う表現は正にそれ。
夢を見始めた頃から、これだけは理解できた。
ただ、何故“食料”を提供され、“生かされている”のか。
とても現実味があるから、尚更分からずにいた。
目を開くと、変わらず光の差さない空間だった。
頭を垂れた状態のまま下を見れば、お世辞にも綺麗とは言えない冷たい床。視線を上げれば等間隔に並んだ鉄格子がある。そして、首と手足に括りつけられた枷から、動く度に鎖の音が響く。耳障りで、異様に心を締めつけた。
(…牢屋?確か銀に薬か何かで眠らされて、……じゃあ此処はマフィアの地下…)
上条以外に気配は無く、太宰の元へいくつもりだったのに随分と逆方向に事が進んでいる。
逃げたいのは山々だが、何分太宰のようにピッキングなど出来ないし、鉄格子の隙間をくぐり抜けるのも無理だ。
どうすべきか、と頭を悩ませているとコツコツという革靴の音が徐々に近づいてきた。昔からとても嫌いな気配だった。
「――やぁ、久しぶりだね上条くん」
『…森さん』
暗闇に溶け込むような黒を纏った、マフィアの首領。
まさかこの人物が此処に来るとは予想していなかったので、上条は思わず目を見開いた。
「先日の招待はちゃんと受け取ってくれたようだね。中原くんも無事に帰ってきたよ、素晴らしい成果を持って」
『最高のタイミングを狙って、確実に行くよう仕向けた癖に。それが最適解、ってやつだから?』
「そうだね。ただ、私が君に最適解を求める場合、それが最善だとは言えないのだよ」
『………』
森の言葉は大抵が意味不明なものだから、特に気にせず、上条は無表情で黙って聞いている。
それが、次の瞬間には崩れさるとも知らずに。
「――随分昔から君のことは知っていてね。気づかなかっただろうけど、会いに行ったこともある。いやあ、この光景は懐かしいね」
『は、』
上条の表情が、一変した。
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ロット - 更新楽しみにしています。また楽しい展開を待ってます! (2018年3月21日 20時) (レス) id: d561f39b52 (このIDを非表示/違反報告)
ファニー - 更新頑張って下さい!応援しています! (2017年5月5日 23時) (レス) id: ccbe8ec79d (このIDを非表示/違反報告)
朔夜(プロフ) - 匿名さん» このお話にBL表現は出さないつもりです。ただ、念のためということで最初に書いただけですし、前編でも対象にはならなかったのでこのままでいきます。…長々と失礼しました<(_ _)> (2017年3月21日 9時) (レス) id: 4c92540543 (このIDを非表示/違反報告)
匿名 - BL表現が少しでもあるのなら、フラグを立てましょう。違反の対象となります。 (2017年3月20日 22時) (レス) id: 53d4575912 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:朔夜 | 作成日時:2017年3月20日 20時