彼女はもともとⅢ (ページ36)

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弁護士の仕事ページ36

「ﾁｯ…お前の隣か。」

弁護士、フレディーは私を見ると嫌そうな顔をする

「…なんから言ったらどうなんだよ」

『……あなたの両隣は調香師と心眼ですよ』

なんて適当なこと言ってみる。
彼は大きなため息をついて違う。と言った。

「俺の両隣はラックと庭師だ。

お前はつまらない人間だな。」

『人を楽しませる方法を教えてもらえてないので。』

もっとも、と私は続ける。

『ここでは“娯楽性のある会話”なんてできないでしょう。』

ここに来てから楽しい会話なんてしてるところを見たことない。
今日の試合は。昨日の試合では、先日は、

では

明日の試合は。来週の試合では、この前は

そんな話しかしないこの荘園で、どうやって楽しませればいいのだろう。
話が上手にできない私に、何もないところから面白い話を求められても困るし。

「本当につまらない人間だな。」

『そうね。』

ではあなたはどうなんだ。と言いたかった。
面白い話ができるの?

そう返せば彼はできる。と言い切る
まずは互いのことを知ろう。と彼は好きなものと嫌いなものを話す

「好きなものは金とマーシャ。嫌いなものはゴキブリだ。」

『ゴキブリって、あのピアソンの事も入る?』

「あぁ。あいつとゴキブリは同等だ。」

来たばかりのときは何度も喧嘩をしたそうだ。
泥を投げられたこともあれば、試合中に二階から突き落としたりしたこともあるらしい。

「この前エマの部屋の前で蹲っていてな。
近づいていったら手袋を握って匂いかいでるんだよ。気持ち悪すぎて支給されてたゴキジェットを噴射した。」

明らかに悪意のある、ゴキブリと同等の扱いにくすくす笑ってしまう。

「ほら、楽しいだろ?」

今度はお前の話だ。と小突かれて頭を動かすが、私の人生面白いとは思えない。

『話せる事はない…』

「なんでもいい。」

楽しい話ならな。
彼はそう言いながら遊園地の地図にこの前出現したハッチを書き込んでいた

『…思い出がたくさんある人って、羨ましい。』

ぽそっと呟いた私に彼は馬鹿だな。と吐き捨てるように言う。

「思い出は今から作っていくものだろ」

だから帰ってこいとぷいっと背かれる。

『できるかな。』

「できないと困るだろうが。」

大体、と彼はロープを木から外した

「目の前でそんな事されたら後味が悪くなるからな。」

去れ、消えろ。と彼は私を庭から追い出した。

「ロープと踏み台がないなの!Aもいないなの!」

エマが騒いでいた。
私を見るとヘナヘナと座り込み

「やめてなの…お願い…」と泣き出した