●減る/増える ページ12
「なるべく早く連絡する。迎えに行くから待ってて」
「分かった」
「……本当に大丈夫か？」
「え？」
「いや。……来てくれるんだよな？」
その言葉に頷くと、彼は微笑んで最後に小さくキスをくれて。
彼を見送ったあとの余韻がなかなか消えそうになかった。
部屋を出る直前に頬に触れられた感触や笑顔と、昨夜からの甘い言葉……
結局抱かれたわけでもないのに、私は彼で一杯になってしまって。
言動をひとつ思い出すたび、気持ちが高ぶっていく。
「……有給。余ってましたよね」
「お前さんが使ってるところを逆に見たこと無いね」
「突然なんですが明日は無理ですか？特別対応のお客様もいらっしゃらないはずだし、」
「ごっ自由にー？」
早口で言い始めた私を止めるようにトクモさんはかぶせてきた。
それがなんだかズル休みの言い訳を見破られたみたいで、嫌な汗が出そう。
別に……有給取得の内容なんて、申告義務も無いし何でも良いのは分かっているんだけど。
それでも、ね……
「その代わりー、今日ラストまでいける？」
「むしろやりたいです」
「はぁ？」
「あ、いえ……大丈夫です、今日は遅くても」
「……ふぅん？ま、そこまで遅くならないけどなぁ。今日は予約少ねぇし」
「そうですか」
彼の仕事は遅くまでかかるだろうから、合わせるためにもそれが好都合と思った。
けれど、早く終わったら色々準備が出来る。そのほうがいいかな？買いたいものだってあるし……
「なっんか引っかかるなぁ早川チャン。何言っても嬉しそうだなぁ」
「っ、そんなことないですけど！」
ジトッと見られると、心の内が見透かされているみたい。
……嫌だな。浮かれてる？私……
「ま、そのほうがいいんじゃないのー。お客様もとっつきやすくて喜ぶだろうよ」
「え。とっつきにくいですか？私」
「良くも悪くもマニュアルから外れないって感じ？」
「……」
「うはは！冗談、冗談。スマーイル！じゃ、今日も頑張ってねーん」
それで言ったら、トクモさんはマニュアルから外れ過ぎてると思うんだけど。
……そうか。そんな風に思われていたのね、私。
“あと半日！頑張りましょう！”
そのメッセージが届けば、顔が綻んだ。
“あと3時間で。たぶん、終わる。(希望)”
それを読むと、途端にドキドキした。
今まで常に持ち続けていたうまく説明出来ないモヤモヤしたものが、少しずつ剥がれ落ちていくような……
そんな感覚で、彼の一文字ずつを、何度も目で追った。
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作者名：みつな
| 作者ホームページ：
作成日時：2017年6月14日 22時
