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第9話:扇情 ページ10

「……?」


10cmほど身長差のある彼の顔を見上げてそっと覗く。
彼は眉間に皺を寄せ、困惑したような表情をしていた。


「……なにそれ。煽ってるの?」


「え、?」


「いや。お前のことだから違うんだろうね。

……でも、ごめん、」


顎を僅かに持ち上げられ、しっかりと目が合う。


「Aが可愛くて、我慢できない。」



ふっと顔が近付いて、影がかかる。


あ、

まずいこれは、
さすがに鈍い私でもわかる、



だめ。



そう止める前に、ふたりの唇は重なっていた。



「ん……っ!!」



唇に温かいものが触れている。
こういうことに一切の慣れのない私を見てか、数秒唇を付けて、私の呼吸に合わせて一瞬だけ離し、またひたりと密着される。

くっついて離れる度に微かに鳴る音が恥ずかしくて、頭が蒸発してしまいそう。
何も、考えられない。

抵抗することもできなくて、ぎゅっと目を瞑ってされるがままになる。



「ん……っう……ッ」



段々口付ける時間が長くなってきたのが苦しくて、彼のシャツを引っ張る。
それでも止めてはもらえず、酸欠で生理的な涙が滲む。

次に大きく息が吸えた時にはもう体に力が入らなくて、崩れかけている体を彼の胸板と膝で支えられているような体勢になる。

シャツを掴む手は、掴むというより添えているだけ。
何の抵抗にもなっていないことは明らかだった。


彼は私の体を少しだけ起こして壁に凭れさせると、流れ落ちた長い黒髪のひと房を耳に掛け直した。
その動きすらも私にはこそばゆく、耳から輪郭、首をくすぐるようになぞる彼の手に、またされるがままになってしまう。

そうして私を弄んでいた彼の長い指が、ふと制服のリボンの端を軽く摘んで止まった。
するりと結び目を解くと、きっちり留まっていたボタンが上から2つ、ぷつりぷつりと流れるように外されていく。


ぼうっとした頭でそれを見ていると、ぱちりと目が合った。


なんて、端正な顔をしているんだろう、と他人事のように思う。


長い睫毛がゆっくり伏せられると、もう一度だけちゅう、と軽く吸うだけの口付けが落ちてきて、頬、あご、のど、首……と徐々に下に降りていく。

片側だけをはだけさせたブラウスの内側に、彼が頭を埋めた。



「……っあ、」


一瞬ちくりと痛みが走った。
顔が上がって、再び視線が合う。



「A……」



精悍な瞳が、愛おしいものでも見るかのように私を見つめて。





私はーーーーー






わたし、は。










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作者名:Mae | 作成日時:2020年10月22日 16時

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