遅咲きのkiss【風丸 一郎太】

Period7 ページ8

「じゃあいっくん、バイバイ」

部活頑張ってね、まもちゃんも。

放課後。
いつもと違うセリフを置いて行って、一人で帰るA。

部活行こう。一緒に帰ろう！
＿このセリフが聞きたかったな。
我儘なのも分かってるけどな。

「ああ。がんばってな」

俺は出来るだけ笑顔でそう言った。
俺も成長するって決めたから。



*



「…あれ、親御さんは一緒じゃないの？」

診察室に入って医者に一番初めに言われたのは、それだった。
私は黙って頷いた。

医師の隣に立っている看護士が、椅子に座るように促してきたので、腰を掛けた。

「今日は大切な話をするって言ったはずだけど」

最近変わった担当医は目付きが悪く、怖い。
前の医者は、優しい女の人だったからなおさらなのかも。

「すみません。どうしても仕事が外せないみたいで…」

そう言うと担当医＿金田(きんだ)先生は、ため息をついた。
恐くて心臓が破裂しそう…。

いっくん…やっぱり来てほしかった。
＿＿＿いや、けどダメ。
だって今日の話は多分、

「じゃあ、余命を告げます」

＿＿＿そう、余命宣告。

「…はい」

覚悟はしてきた。
大丈夫。だって私、こんなに元気なんだよ？


…きっと、大丈夫。

「半年です」

＿ああ、そうか、半年か。

「けどこれは、治療を受ければの話です。今からでも入院してもらえば、もっと長いでしょう。
しかし、治療を受けない場合、薬のみの場合は、もっと短いです。…3か月持てばいいでしょう」

私は、淡々と流れるその言葉を、自分でも驚くほど冷静に聞いていた。
前に立っている看護士の心配そうな顔が見えた。

「どうするかは、ご家族で決めて下さい。来週までには返事を言いに来てください」

では、検査に移ります。
そう言って席を立った金田先生の後ろを追った。


私はこれからある苦しい検査よりも、このことをいっくんに話そうか＿＿＿で頭がいっぱいだった。

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