遅咲きのkiss【風丸 一郎太】

Period13 ページ14

俺は、何してるんだろう。
Aのために、なにか出来ないのだろうか。

無力な自分がイヤだ。

誰にも、どうとも出来ないのは、わかってる。

けど今、目の前で…集中治療室の中で、生きようと懸命に頑張っている姿を見ていたら、何して良いのか、全然わからない。

きっとAなら、練習しろと言うだろう。
けど、できない。
今しても、きっと意味はない。



俺は近くにあった長椅子に、腰を掛けた。

Aは目を瞑っている。
良い夢でも見ているのだろうか。

ならいっそ、俺も目を瞑ろう。
Aと一緒の、夢がみたい。









目を開ける。

そこは、病院だった。
けど、もう夕方だったはずなのに、建物内には、陽がさしていた。

「…夢、か?」

けれど、現実じみた夢だ。
今座っている椅子に触っても、感覚がきちんと伝わってくる。

そして、顔を上げると、目の前は、集中治療室。

俺は息を飲む。

ここでAがいるか確認してしまうのが、なんだか怖かった。
けど、いつまでもここにいて座ってても、意味はない。

だから、スッと立ち上がって、見てみた。

「いない…」

脱力した。
なんだかすごく、安心した。

これは、夢だ。

また、椅子に座りこんだ。



「…どうしたの、お兄ちゃん」

下を向いていると、女の子の声がした。
それも、なんだか聞き覚えのある。

「なんでもな__え」

顔を上げて見てみたら、それは幼い頃のAにソックリ__いや、瓜二つの、人形を抱えた子がいた。

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