□頂戴 ページ19
.
「よし、やるか」
松野さん家の台所でチョロ松くんに借りたエプロンをきゅっと結ぶと髪も後ろでまとめて手を洗う。
見た目は可愛いバレンタインの贈り物だけど、女子ならわかると思うけど、作るのは結構重労働。
買い込んだチョコレートを包丁で砕く。
「おっ!やってるやってるー」
「…向こう行っててください」
楽しそうに私の手元を覗き込んでくるおそ松さんから離れるように反対側へと少し移動すれば「うわ、避けられてるよ」とブツブツ文句を言い始めた。
このあいだの例の件から、警戒心ビンビンの私は少しおそ松さんから頑張って距離をとったりなんかしてる。
「ていうかなんで俺だけ?チョロ松にラブホ連れ込まれたのにそっちはお咎めなしかよ!」
「あれは不可抗力だって言ってるだろ」
「…語弊ありまくりです」
ブツブツ文句を言うおそ松さんを、様子を見に来たらしいチョロ松くんがすごい剣幕でおさえる。
チョロ松くんは「おそ松兄さん、母さんに買い物頼まれたから行くよ」と無理矢理おそ松さんを掴んで連れ去ってくれた。
(……腕いた…)
静かになった家の中で、腕を痛めながら板チョコを砕き終えて湯煎を始める。
黙々と作り続けているところで玄関がものすごい音を立てて開いた。
「ただいマッスルマッスル!ハッスルハッスル!」
「十四松くんおかえりなさーい」
確認しなくても誰かわかるその声に返事をすると「うわっ!なんかいい匂いする!」と野球のユニフォームのまま台所まで突っ走ってきた。
「うまそーっ!Aちゃん!一個!一個頂戴!」
「いいけど、手ぇ洗って…」
「あーん」
泥だらけの十四松くんは、手を使わないようにと私の方に向かって大きく口を開ける。少し屈み込むように見つめられて思わず心臓が跳ねた。
「あ、あーん…」
「うまいっ!うまいよーっ!」
「あはは、よかった」
もぐもぐと味わって盛大に喜んでくれる十四松くんに照れくさくて小さく笑うと「もう一個!もう一個!」とねだられる。
「もうダメ〜」
「えぇぇ!?マジで!?…へこみー」
ほんとに項垂れる十四松くんに「当日にまたいっぱいあげるから」と笑うと「うおーっ超楽しみ!!」とすぐに復活した。
.
3645人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「アニメ」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ