□十四松 ページ5
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「………はぁ」
「ため息やめろ。ミーのハッピーまでどこかいっちゃうザンショ」
「すいません…」
「平野、外回り行くザンスよー」
「は、はい!」
デスクでため息をつく私を冷たい目で見ていた井矢見さんは車のキーを指でくるくる回しながら私に声をかける。
私も急いで立ち上がると井矢見さんの後を追って車の助手席に乗り込んだ。
「なんでため息ついてたザンスか?」
「ご近所さんに嫌われてるかもしれなくて…」
「いい気味ザンス」
「なんか言いました?」
聞こえてきたひどい言葉に運転席を見ると私の悩みなんてどこ吹く風で口笛吹いてる井矢見さんがウザい。
「初めて会った時は優しい人だったのに、会う度に人が変わったように性格が変わって……私嫌われてるかもって」
はぁとため息をついたら、「ため息つくなって言ってるザンショ」と頭を叩かれた。
謝って外を見ると、川からすごい水しぶきが上がってるのと人影が見えた。
「井矢見さぁあん!車止めて!」
「タメ口ザンスか」
「止めてください!」
人が溺れている。
止まった車から急いで降りるとだだだと河川敷に駆けおりる。「大丈夫ですかー!」と叫ぶと、水しぶきはこちらにむかってくる。
「…………へ?」
松野さんが川をバタフライで泳いでいる。
呆然とする私の目の前を、松野さんが通って、私は頭から水を被る。
「…………」
呆然と立ち尽くす私に、泳ぎ切った(?)らしい松野さんは楽しそうにヘラヘラ笑いながら川から上がってきて、パーカーを着る。
そして河川敷に寝ているホームレスの人に「お疲れ様っす!」と謎の挨拶をした。
「あ、何かと思えばおそ松のところの…」
「あ、井矢見じゃん。前歯よーし!」
松野さんは井矢見さんの前歯を相変わらず笑いながら叩くと、目線を私に向ける。
「水浴びですか!精が出ますね!お疲れ様でーす!」
「いや!お前のせいザンス!!」
「え!?俺!?」
本気でびっくりしてるらしい松野さんは、「すいません!」とガバッと頭をさげるといきなり目の前でパーカーを脱いでスポッと私に着せる。
「え、あ、ありがとうございます」
「いやいや〜!じゃもうひと泳ぎするかー!」
「…お、溺れないでくださいね!」
「ゼンショするー!」
楽しそうにかけて行った松野さんは、やっぱり前までと性格は違うし、着せられたパーカーはびしょびしょだけど、
なんだか優しさが嬉しかった。
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