□誘ってない ページ40
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「こんな時まで働かなきゃいけないなんてありえない」
「そういうのは仕事のできるミーが言うからいい言葉ザンス」
「お前が言ってもタダの負け犬の遠吠えザンス」とバカにしたように笑う井矢見さんに不貞腐れて窓の外を見ると、河原に人影が見える。
「井矢見さんストップ!」
「タメ口」
「止まってください!」
「アレ、十四松くんじゃ…」と呟く私に井矢見さんもそちらを見て「とんだバカザンスね」と眉間にしわを寄せた。
こんな大荒れの日に、氾濫しかけている河原で素振りをしている十四松くん。
心配で車から出ようとする私に「あんなドロドロの奴を載せるのはゴメンザンスよ」と冷たい一言が返ってくる。
「で、でも…!」
「ん」
井矢見さんは私に乱暴に自分の傘を持たせると車から追い出してすぐに車を発進させた。
冷たいし、お金にしか興味ないし、センスもないけど、井矢見さん、案外いいところあるんだ。
私は受け取った傘を見て小さく笑うと、自分も濡れ始めていることに気がついて急いで傘をさす。
「十四松くーん!!」
「アレ、Aちゃん」
十四松くんはびしょ濡れで、笑いながら私にブンブンと手を振る。
「危ないから川から離れて!」と叫ぶと、「私を甲子園へ連れてって!?わかった!!」とまたバットを振り始めたもんだから、私は急いで河原を駆け下りる。
十四松くんを無理矢理傘に入れると、帰り道の方向へ歩き出した。
「何やってんの十四松くん」
「素振り!」
「それは見ればわかるんだけど…」
「危ないから気をつけなよ」と苦笑いで言うと、十四松くんが連続でくしゃみをする。
…バカはなんとかっていうけど…。
「十四松くん、これちょっと濡れてるけど…着てて?」
手に持っていたスーツのジャケットを渡すと、「え!いーの!?ありがと!」と十四松くんは私の手からそれを受け取った。
すると、十四松くんの動きがピタッと止まる。
十四松くんはいきなり、はてなを浮かべる私の身体に手を伸ばすと、シャツがくっついて丸見えのブラの紐から谷間のあたりを、人差し指ですーっとなぞった。
雨で濡れたシャツの冷たさと、十四松くんの指の暖かさに背筋がぞくりとする。
「うわぁぁあ!!」
「それブラジャー!?ブラジャーだよね!?誘ってる!?俺のこと誘ってる!?」
「ない!誘ってない!」
キラキラした目でズイズイ迫ってくる十四松くんの頭をスパーンと叩くと、また先へ歩き始めた。
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