□寒い ページ26
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松野さん家の引き戸を引いて外に出るとぶわっと寒い空気が身にしみる。
辺りはすっかり暗くなっていて、満月の出た空を見上げながらカラ松さんと並んで私のアパートへ歩き始めた。
「今朝はほんとにありがとうございました」
「またいつでも送ってやるぜ」
「それで倒れたら、私もまたいつでもハンバーグ作りに行きますね」
フッとカッコつけてるカラ松さんを手を擦りながら笑って覗き込めば、「お、おう」と頭をかきながら目線をそらす。
カラ松さんはとにかくイタイけど、ほんとは優しい人なんだなぁとなんだか今日1日で感じた。
次男には見えないと思ってたけど、面倒見もよくて優しい人だ。
「さっむいですね…もう冬かぁ…隙間風が寒い」
「あのボロさじゃな…」
「…おっしゃるとおりで…」
「…カラ松さん家はこたつの取り合いになりそうですねー…」と私が一人で語っていると、カラ松さんからは返事がない。
隣を見ると、顔を真っ赤にしながらソローッと私の手に自分の手を伸ばしていた。
「…カラ松さん？」
怪訝そうな私の目線に気がついて、バッと手を引っ込める。
なにをしようとしてたんだろう。
ハンバーグなんて作ったからお母さんが恋しくなったんだろうか。
「…ごめんなさい、私お母さんの代わりは…」
「…別に母親を求めたわけじゃない！！」
「じゃあなに…」
赤くなる顔を隠すようにサングラスをかけると私の手をぐいっと掴んで自分の上着のポケットの中に突っ込んだ。
黙る私を早足でひっぱるように先を急ぐ。
「……か、カラ松さん」
「さ、寒いだろ。お、俺が…、あっためてやろうと思っただけだ」
相変わらずイタくてこっちまで恥ずかしくなるようなセリフを言ってのけるカラ松さんに、私も熱くなる頬を隠しながらされるがままでついていく。
「………あ、あったかいです、ありがとうございます」
カラ松さんのポケットの中でするっと繋ぎ方が変わって、いきなり恋人つなぎになる。
私は慣れないことにグンと体温が上がってしまった。
二人して黙り込んだままアパートまで行ってゆっくり軋む階段を上がる。
「送ってもらって…ありがとうございました」
「おう………あの、A」
「………初めて名前、呼んでくれましたね」
何かを言いかけたカラ松さんに笑えば、困ったように頭をかいて「これ、俺の連絡先」とメモを私に押し付けて足早に去って行ってしまった。
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