□遅刻 ページ19
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「カラ松さんは朝早くからサングラスに革ジャンなんてすごいですね」
「これぐらい普通だ」
「朝っぱらから暑苦しいってよ」
「そんなこと言ってない!!」
私の言葉を異訳して伝える一松くんの背中をべしっと叩く。
ものすごく落ち込んでいるカラ松さんを必死に励ましていると、一松くんがぼそりと呟くように尋ねた。
「アンタ、いっつも職場までどうやって行ってんの」
「バスだけど…」
「……今日風強すぎるからバス、便減らすってテレビで言ってたけど」
「…………嘘でしょ」
一松くんの言葉にさぁーっと血の気が引く。
「次遅刻したら…どうなるかわかってるザンスね…」という気味の悪い井矢見さんの言葉が蘇る。
カバンからスマホを出して調べると、いつも乗ってる便がまさかの運休。
「…………終わった…失業だ…」
道路の真ん中で項垂れる私を見かねたように、カラ松さんはふっと笑ってサングラスを地面に投げつける。
そして、さっと私の目の前に膝をついてしゃがむと、顎をくいっと持ち上げる。
「そんな時の、俺だろ?」
「え……カラ松さん…もしかして車とか……」
「待ってろ。俺の愛車で送ってやる」
ふっと笑って鍵を取り出したカラ松さんに、私は「救世主だ…」と感動する。
一松くんはといえば、猫を抱いたまま私とカラ松さんを冷めた目で見つめている。
「よし、乗れ。カラ松ガール」
「…………え」
「俺の愛車、ブラックカラ松号だ」
カラ松さんが出してきたのは、どう見てもママチャリで、私は絶句する。
カラ松さんは跨って、私を後ろに乗るように目で促す。
「…え、乗るんですか」
「…………もう8時半だけど」
「あと30分しかない!!」
一松くんが携帯を見ながら言った言葉に、私はもうこれしか術がないと、カラ松さんの後ろに飛び乗って後ろからぎゅっと腰に抱きついた。
「カラ松さん!!お願いします!!」
「あ、あの…」
「なんですか!?」
意思を固めた私に、カラ松さんがいつの間にかけたのか、サングラスをくいっとあげながら赤い顔でニヤついている。
「…だ、大胆だな。カラ松ガー…ゔっ!」
「さっさと行け」
一松くんに蹴られたカラ松さんは「は、はい…」と頷くとすごい勢いで自転車のペダルを漕ぎ始めた。
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