■チビ太 ページ16
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「らっしゃい！」
「こんばんは」
おでん屋さんの屋台に入るなんて初めてだ。
屋台の中には、たくさんの具材が浮いていて、ふわふわと美味しそうな湯気が立ち上っている。
思わず「美味しそう…」と呟けば、「あったりまえでぃ！」と店主さんが嬉しそうに笑った。
「んー…卵と大根とこんにゃくください」
「はいよ！」
店主さんは慣れた手つきでぽんぽんっとお皿に乗せると私の目の前に出してくれた。
「いただきます」と頬張ると、ほろりと口の中でほどけていく。
「んー…美味しい…」
「へへっそうだろ！こんちきしょーめ！」
「やっぱりおでんは長いこと煮立てた方が美味しいんですかね、店主さん」
「俺はチビ太だ、店主さんなんて大層な名前やめてくれ！」
チビ太さんは照れたように「ウチの美味さは企業秘密だバーロー！」と笑った。
「…ねえちゃんは見ない顔だけどこの辺の人？」
「はい、この前引っ越してきたんです。仕事の都合で…」
「そうかぁ…社会人は大変だよな…飲むかい？」
「…今日はお昼に飲んだから…」
「チビ太ー」
苦笑いで断っていると、暖簾をくぐって誰かが屋台に入ってきた。
「…いち」
「おぉ、おそ松」
「お、おそ松さん」
「…A今お前俺の名前間違えかけただろ」
私をじとーっと睨んで、「ま、いいけど」と言うとおそ松さんは「酒くれチビ太」と私の隣に座って項垂れた。
「お前が溜まったツケ払うまで酒はださねーよ！バーロー！」
「…A」
「…」
甘えるように見てくるおそ松さんからすーっと目をそらす。
「頼むよぉぉ！俺もうメンタルズタボロなんだよ！！」
「チョロ松に殴られ、カラ松にも殴られ、トド松に他人のふりをされ、一松は猫と合体するし…十四松も川でバタフライしてるし…」とブツブツ呟いてるおそ松さんに、私は仕方なく「ビールください」とチビ太さんに伝えた。
チビ太さんは「いいのかねえちゃん、こいつが関わるとろくなことねーぞ」と私のことをじと目で見ながらビール瓶を出してくれた。
「ありがとうA…大好き。このご恩は今夜身体で…」
「いりません」
「いただきまーす」と嬉しそうに飲むおそ松さんに、「私も大変だったんですよ」と語る。
「帰ったらちゃんとチョロ松さんに謝ってくださいよ」
「…えー俺悪くないじゃん」
「アンタが悪いんです」
「……えー」
不満そうに文句垂れるおそ松さんに、私も一つ溜息をついた。
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