致死に近い ページ9
「‥‥ええと、もしかして松本さん寝てた？」
『いや、今さっき帰って来て、風呂入ってた』
「わぁお疲れさま。大変だねぇほんとに」
しみじみ呟くと、今日撮ったやつ放送がいついつだから観てよと松本に言われた。Aが覚えてたらと返すと、ほんと対応が雑だなーと笑われる。
ちょっとしたやりとりなのに、いちいちどぎまぎするのは、相手が超人気アイドルだからだろうか。
意識しなければただの友人の誰かと話しているような錯覚すら覚えるほど気安いというのに。
七分咲の桜並木と、樹幹を抜ける涼しい夜風。
ぼんやりと赤い提灯と屋台と人いきれ。
電話の向こうには、夢の世界の住人みたいな超有名人。
夜だから外だから、なんだかちょっと潜めてしまう自分の声。
全部が不思議で楽しくて、Aはふふっと笑う。
『――もしかして今、外？』
Aの後ろの喧騒に気がついたのか、松本が聞く。
「うん、夜桜見物ついでにビールが美味しい」
『誰と』
「？ ひとりだよ」
『‥‥。危ないだろ、何時だと思ってんだよ』
一瞬松本の声が低くなった気がしたが、直ぐ元に戻っている。Aの気のせいだろうか。確かめるすべは無いけれど、気にしたってしょうがない。
「何時って。松本さん私の事何歳だと思ってんの。今帰ってるところだよぉ、もうすぐ最寄り駅ですよぉ」
『ちょっとちょっと、おねーさん実は結構酔っぱらってんの？』
「うん？うーんビール三杯くらい」
『おい、一人で見に行って飲む量じゃないだろそれは』
「ふふっ」
楽しいから、つい。
そう返せば、まぁ気持ちは解る、と呆れたような返答が聴こえてくる。
テレビで聴くのとも、直接話すのとも違う、息遣いが分かる距離の声音にAはまた笑った。
その楽しそうな様子に、どうして俺はそこに居ないんだろうと思ってしまって、松本は頭を掻く。
『しょうがないから、家に入るまで電話しててあげますよ』
「ええー悪いよ」
『良いんだよ、俺がまだ話してたいの、Aさんと』
本気でそう思っているから、松本の言葉に衒いも照れも無い。
「‥‥‥」
『Aさん？ おーい』
けれど、そんな攻撃力の高い爆撃を無防備にも食らってしまった側は違う。これは致死に近いのでは！？ とAは混乱したまま思う。
「‥‥‥なんでもない」
そう答えるだけで精いっぱいだ。
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お塩(プロフ) - ゆぃさん» ゆぃさん、一気読み疲れないですか？今後どんどん長くなる上に、どんどん何なのこの人たちってなるので(笑)ありがとうございますー！ (2021年10月3日 19時) (
レス) id: c86e5730cc (このIDを非表示/違反報告)
ゆぃ(プロフ) - 小出しもいいけど、一気に読めると尚嬉しいから 一気に出しても大丈夫ですよ~♪ (2021年10月3日 13時) (レス) @page29 id: 7a81be16ec (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：お塩
| 作成日時：2021年9月29日 1時
